『冥王計画羅生門』第11話「今が駆け抜けるとき」
 さて、俺は今、自宅で羅生門と鍋を囲っているわけだが。
「これ、冥王。ぼけっとしておらずに、さっさとそっちの豆腐を入れるが良い」
 まぁ俺の予想通り、羅生門は鍋奉行だった。
 指示通りに豆腐を鍋に入れ、俺はふと羅生門を見やった。
 こないだのピンクローター奪還騒動から4日が経った。俺も羅生門も大学が始まり、お互い暗黙のうちに、こうして毎晩食事をともにしている。
「なぁ、羅生門」
「なんだ? もうすぐ食べごろだから、少しくらい我慢できぬのか」
「いや、鍋のことじゃなくてだな……」
 俺は早速、切り出してみることにした。4日前から抱えていた、疑問を。
「結局、あの夜……おまえがこっから駆け出して行ったとき、一体どうなったんだ? イマイチよくわかんなくてな」
「ふむ。冥王にはまだ理解力が追いつかぬか。まぁ仕方なかろう」
 微妙にムカついたが、スルーすることにした。11歳の少女に手を上げてはいけない。
 俺が怒りを抑えていると、羅生門は続けた。
「そろそろいい頃合いだから、食べるが良い」
「あ、ああ」
「さて、この間のことか……冥王はどう思うのだ?」
「俺か? 俺は……」
 あの夜のことを思い出してみる。そして、情報を頭の中で整理してみた。
「なんかいろんな事がいっぺんに起こりすぎてわけわかんなくなったけど。とりあえず羅生門、おまえは確かにここに存在している、そういうことだろ?」
「羽夢。わらわはわらわによってここにいる。それは紛れもない事実だ」
「この世界は俺のものだって言ったけど」
「それは後天的なもので、冥王、そなたが冥王になったことで起こったことだ」
「つまり、2004年12月23日の時点で、この世界が俺のものになった?」
「そういうことになるな。だが、世界を手にしたからとて、何もかもが思い通りにいくわけではない」
 そう言って、羅生門は一旦、箸を置いた。
「要はこの世界を統治する立場のようなものだ。冥王、そなたが強く願えば、この世界は変わる。少しずつだが、確実にな」
「よくわかんねぇけど、おまえは別に俺の願望から生まれた存在ってわけじゃないってことだよな? 冥王になる以前に出会ったんだし」
「そういうことだ。随分と理解が早くなったではないか」
「一々茶化すな。俺はこれでも安心してるんだぞ」
「なにをだ?」
「おまえが……羅生門がちゃんといてくれてるってことにだよ」
 頭を掻きながらそう言った。こっぱずかしい。
「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいのだ。ありがとうなのだ」
 羅生門はにっこりと笑った。
 その笑顔が、俺にはたまらなく可愛らしかった。
「ん? 冥王、何を転がりまわっておるのだ?」
「い、いや! なんでもないんだ……ゴホン、ところで、羅生門」
「ん? まだ訊きたい事があるのか?」
「結局、ローターを返すつもりはないのか?」
「むぅ。あれは一度もらったものだ。返す義理などないのだ」
 羅生門はつーんと顔を背けてしまった。
 ありゃりゃ。なんか怒ってるみたいだなこりゃ。
 でもなんでだろう。俺は自然と顔が緩むのを感じた。羅生門のことが可愛くて仕方がないのだ。
 確かに羅生門は俺への気持ちを恋愛と勘違いしているのかもしれない。だけど、それがどうしたというのか。大人の恋愛と子供の恋愛はそこまで違うものなのだろうか。
 俺は思う。俺さえしっかりしていれば、変に暴走しなければ、このままでも大丈夫なんじゃないかと。羅生門が大人と呼べるような年齢になって、それでもまだ俺のことを好いていてくれるのなら、そのときは本気で羅生門を愛せばいい。いや、今だって、俺は本気で羅生門のことを……。
「何を考え込んでいるのだ?」
「うわぁっ!!」
 不意討ちだった。羅生門が俺の顔を覗き込んでいたのだ。心臓がバクバクして止まらない。ダメだ。これは本気でダメだ。俺ぁ骨抜きだ。
「羅生門」
「?」
 俺は、ここ数日考えていたことを口にした。
「ローター、別に返さなくてもいいから。その代わり、あんまりエッチなことに使うんじゃないぞ」
「エッチなこととはどういうことを言うのだ?」
 羅生門がにやけて言っている。こいつは人をからかうとき、心底楽しそうな顔をする。この年からそんな楽しみを覚えているとは末恐ろしい。
「大人をからかうのはやめろ」
「むぅ。子供扱いするでない」
「ああもう、わかったから。話戻すけど、エッチなことするんだったら、俺がいるときにしろ」
「え……」
 羅生門が意外そうな顔をした。
 言いにくいが、ここまで言ったら最後まで言うしかあるまい。俺は覚悟を決めた。
「だから、エッチな気分になったら、俺がなんとかしてやるって言ってるんだよ。おまえがそういうことに興味持ったの、俺の責任でもあるしな。だから、一人でやるんじゃないぞ」
 それに、羅生門のエッチな姿だったらいくらでも見たい。そう思ったがそれはあえて言わないでおいた。
「冥王……そなた、わらわのことをそこまで……」
 羅生門が顔を真っ赤にしてうつむいている。
 あかん! なんてかわいいんや! ぽぎょわあああああああああぁぁぁぁぁぁすげぇたまらんわぁ!!
 俺は羅生門を押し倒した。
「わきゃ! な、なにをする!」
「鍋、食い終わったら早速、しないか?」
「む、むぅ〜。こんなふうに迫られては、断れないではないか……」
 つまりOKということだ。つくづく可愛いやつだ。羅生門というものは。




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