『冥王計画羅生門』第18話「殺戮言語永久機関」
かくして羅生門とコキョオの戦いは幕を開けた。
コキョオの戦法は格闘。マーシャルアーツのようなスタイルの攻撃に、漆黒の翼による移動速度が加わり、地味ながらも堅実に戦局を進めることができる形だ。
対する羅生門は両手に握る滅法棍を武器とした打撃戦。羅生門の滅法棍の腕前は俺が思っていた以上だった。だが、それがコキョオに通用するかどうかは正直、未知数だ。
俺の音速を超えた攻撃でも敵わなかったコキョオ。ヤツの強さには計り知れないものがある。短い間ではあったがヤツと戦うことによって俺は思い至った。ヤツは賢い。こちらの攻撃を冷静に分析して次の一手を読んでいる節がある。そこもヤツの強さなんだと俺は思う。
そんな相手に、羅生門が敵うのだろうか。
そうして俺はふと考える。
羅生門は強いのか?
よくよく考えてみれば、羅生門が強いのかどうか、俺にはよくわからない。戦ったこともないのだ。滅法棍の腕前は相当のものだろうが、俺が見たのは一つの"技"であって"戦い"ではない。実践でそれがうまく使えるのか、そもそも実践なんてものをこなせるのか、俺にはわからない。
対峙する二人を前に、俺は痛む身体を抱きしめた。
「クソッ」
後悔が耳の奥で響く。こんなことなら最初から二人で戦っていればよかった、と。
おんなわけのわからない敵との戦いに羅生門を危険に晒してしまうなんて、俺は最低な男だ。
俺が自責の念で耐え切れずにうつむいた瞬間、状況は動いた。
顔を上げた俺は、何が起こったのかわからなかった。
羅生門が、俺の目の前に、背中を俺に向けて、立っていた。
コキョオが、その向こう側で、背を上に向けて、ふっ飛んでいた。
「なっ……」
落ち着け、俺。とりあえず頭の中で何があったのか整理してみよう。大学の教授も、レポートを書くときにややこしくなってきたら、とりあえず自分が表現したい主題を箇条書きにしてみなさいとおっしゃっていたではないか。あの教授は先日わかりやすく痴漢で捕まったが。
・羅生門は両手で握っていた滅法棍を今は左手だけで持っている。
・コキョオはすでに倒れている。
・教授捕まったからレポートなくならないかなぁ。
・あ、コキョオが立ち上がった。
・コキョオの左半身がもげている。
ええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!????????
コキョオの左半身がもげている。うっそん。小さい女の子相手だからといって油断したのだろうか、コキョオの左半身は見事にどっかに霧散している。
「ら、らららら、羅生門さん? 一体なにをしたんで?」
上ずった声で訊く俺に羅生門が背を向けたまま答える。
「なぁに、あやつがうかつにも飛び込んできて蹴りを放ったものだから、カウンターとばかりに脚ごとぶっとばしてやったのだ」
簡単に言い放つ。
ええええ、羅生門、そんなに強かったの?
「コキョオオオオオオオオオォォォォ!」
瞬時、コキョオが叫び声と共に飛び込んできた。
「冥王、さがっていろ!」
ガキイイイィィン、と空間に甲高い音がこだまする。
コキョオの右足の蹴りを羅生門が滅法棍で受け止めたのだ。流石は我が家に代々伝わる霊験ある宝具、あれぐらいで折れたりはしない。
「ほう、片脚だけでろくに反動もつけられぬ状況でこの威力……半身をやられてようやく本気を出したか?」
「コキョオォォォ……」
強気な発言の羅生門だが、今の一撃で手がしびれたのだろうか、両手に持ち直している。
そこからだった。激戦が繰り広げられたのは。
コキョオは半身をもがれたにも関わらず、猛烈なスピードを活かして羅生門に反撃の隙を与えない猛攻を見せ、対する羅生門は反転した先の棍の先端を利用したアクロバティックな防御でそれを凌いでいく。
見開いた目が止まる。動いてもいないのに、体がしびれてくる。二人とも、ものすごい。俺なんかが出る幕じゃなかった。俺なんかでは、あの二人の足元にも及びはしないだろう。
怖さはない。ただ、純粋な屈辱と、敗北感が、俺の中にはあった。
なおも続く激戦は、終わりを告げようとしていた。
コキョオが大きく足を上げ、回し蹴りを放ったのだ。
羅生門はそれまでと同じく、飯店してそれを避け――――いや、飯店ではない。反転でもない。切り返し、そこからさらに一歩、コキョオの背後に踏み込んだのだ!
棍一閃、遠心力を利用した背面突きは、今度はコキョオの翼をもいでその持ち主をふっ飛ばした。コキョオはまたもうつぶせに床を転がる。
「コ、コキョオオオオオ」
なにか呻いている。
「?」
俺は異変を感じた。追撃する絶好のチャンスなのに、羅生門は何故か動かない。そういえばさっきも同じようなチャンスに、羅生門は動かなかった。わざわざ相手の攻撃を待っているかのように。
とはいえ、コキョオといえども翼が失われればこっちのものだ。ヤツの戦力の源である移動速度を奪ったのだ。これなら俺でも勝てるに違いない。
そう思って俺は颯爽と羅生門の前に出た。
「あとは任せろ、羅生門。さぁこい天狗もどき!」
「コ……コキョオ」
コキョオは小さく呟くと、そのまま飛び上がっていった。
「おい、逃げるのかよ!」
瞬く間、というほどではなかったが、コキョオは素早く東の空へ消えていった。羽ー夢、翼がなくても飛ぶことはできるらしい。
まぁ、なにはともあれコキョオを撃退できたんだからよしとしよう。それより羅生門だ。
「やったじゃねぇか、羅生門。意外に強いんだな……!?」
振り返った俺は絶句した。
何しろ、その場に羅生門が倒れていたのだから。
「おい、どうした!」
俺は羅生門に駆け寄った。急いで抱き起こす。
「うぅ……」
俺の膝の上で羅生門が小さく呻く。俺が見た限り、コキョオの攻撃は全て防いでいた。たいしたダメージは受けていないはずだ。それなのに、何故?
「すまぬ、冥王。ちょっと疲れたのだ。休ませて欲しいのだ」
「なんだ、戦いで疲れただけか。おどかすなよな」
俺はほっとした。と同時に、やっぱり羅生門も普通の女の子なんだな、と思った。
確かに戦いではスピードや力、技術も重要だ。だが最後にものを言うのはやはり体力なのだ。羅生門にはその体力が欠如している。そこが羅生門の弱点と言っていいだろう。今後、羅生門を戦力として考えるのならば、そこを鍛えるべきだろう。もちろん、戦力としてなんか考えたくはない。俺が戦えるようになるのが一番いいのだが。だが、今はひとまず、
「ゆっくり休め。お前一人くらいなら、俺がおぶってでも何とかここから出られると思うから」
羅生門に安心させてやりたかった。
「……ありがとうなのだ、冥王」
羅生門は優しく微笑んでくれた。なんて可愛いんだ……。
ふと見ると、羅生門の服やスカートはところどころが破れている。さっきの激戦のせいだろう。その破れからチラチラと少しだけ見える羅生門のまだ未成熟な胸の辺りとかぷにぷにしたお腹とか細い太腿なんかが妙にそそる。ちゅうかマジエロい。
むあー。いきなり俺の中のフェストゥム……もとい、フェイドゥム様がお目覚めになった。
いかん、欲望に乗っ取られてはいかんというのに……もはやそんな説教、聞き飽きた。大人が始めた戦争じゃないか。ならば俺も大人になったら、好き勝手できるという理屈が間違っていると誰が言えようか。言えるけどね。いや、言わせない。
そうして俺の頭は完全にヒートした。つまり下。
俺は抱き上げた羅生門を股間に押し付けた。ズボンと羅生門のスカート越しに、やわらかいお尻の感触が股間に伝わってくる。
ほわあああああはあああああぁっぁぁぁ。
こりゃもう我慢ならぬわぁああああ!!!!(・∀・)!!!!