2005年7月25日午前5時5分
『冥王計画羅生門』第19話「回帰性戦慄カテゴリーあるいは怪奇性旋律カテゴリー」
まぁいろいろあって俺の脳内では現世からエロスワールドへのエロスゲートが開かれたのであった。性戦士となる日も近い。
「抱きしめれば折れそうなほどにか細い身体、俺はその計り知れない魅力に吸い込まれそうだった。目を瞑っていてもはっきりとイメージできる11歳の身体、それは裸体。つまりは一糸纏わぬ姿。だがそのような偶像に一体どれほどの意味がある。どれほどの価値がある。想像とは人類の知恵だ。妄想とは人類の財産だ。空を飛ぶ空想が人類に飛行機をもたらしたように、新たな一歩を踏み出すためには時として柔軟な発想が必要なときも確かにある。だが、俺は敢えて言おう。今だからこそ、傷付き倒れた羅生門をこの腕で支えている今だからこそ、言えるようなこともある。こんあ頭の中だけででっちあげた映像に意味などはない、と。そもそも羅生門を俺の勝手な都合で頭の中であられもない姿にするのは、そう、犯罪的だと思うわけだ。生でするならそこには相互理解がある。やはり生はいい……今俺は、山奥、すなはち、広大な自然の中にいる。是非とも今のピュアな気持ちを、この大自然に伝えたいものだ。聞いてくれるか比叡の山々よ」
「ど、どうでもいいが、冥王……そなたの心の声が丸聞こえなのだが……これは幻聴なのか?」
痛む身体を庇って羅生門が細目でこちらを見たが、俺は一向に構わない。
「やっぱり生が一番じゃー!!」
「う、五月蝿いのだ……」
ややあって、
『やっぱり生が一番じゃー!!』
こだまが返ってくる。それ以外にも、空洞内に残響が響き渡る。
羽夢。非常に心地が良い。ビバ比叡山。ビバ大自然。
俺は虚空を仰ぎ見た。
……幸せだ。
羅生門システムとか戦いとかそういった余計なことを忘れて今だけは羅生門と純粋に戯れようと、心から思う。
決心をした男は強い。俺は鬼神の如き速さで首をたたむと、羅生門の胸に顔を埋めた。
「はふ……」
怪我をしている羅生門は息苦しいのだろうか、はぁはぁと息をしている。
「大丈夫か羅生門、すぐに俺が楽にしてやる」
俺は羅生門のブラウスのボタンを口で外そうとした。
む。これは手ごわい。なかなか外れようとしない。
そこで俺は一つの方法に思い至った。今くわえているボタンを引きちぎり、その勢いで羅生門の服を破るというのはどうだろう。きっと羅生門は酷く怒るだろうが、それ以上に酷くそそる行為ではなかろうか。泣きじゃくる幼子を無理矢理剥く背徳感……たまらぬものがある。
……ハッ!? お、俺はなんてことを考えていたんだ! そんなことをしたら、帰りに羅生門を庶民どもに見られてしまうではないか。恥ずかしい格好をした羅生門は晒し者ではないか。いや、羞恥プレイも捨てたものではないが、それでは羅生門が可愛そうだ。やはり俺が愛してやらねば。
というわけで食いちぎる案は全力で却下だ。俺はなんとか一つ目のボタンを外すことに成功した。もう性交したぐらいの達成感だぜ。
開いたブラウスの襟から羅生門の鎖骨が覗く。
くうううぅぅぅぅはあああああぁぁぁぁぁ、可愛いぜ羅生門の鎖骨! 略して羅骨!!
などと馬鹿をやっている場合ではない、白く美しい薄肉に包まれた鎖骨、今舐めずしていつ舐めようか。俺はすぐさま羅生門の首に舌を這わせた。
びくん、と羅生門の身体が反り返る。
……いい反応だ。
そのままつつー、と舌を鎖骨周辺に彷徨わせる。俺は美味しいものは最後までとっておくタイプなんだ。あああああああー、でもオードブルからこんなに美味しいなんてえええええぇぇぇぇ、聞いてないよそんなこと。鎖骨本体の味を想像しただけでも脳に何かが強烈に来る。
さぁ、いよいよ本番だ。俺は倒れそうになる自身の身体をなんとか支えて、鎖骨本体に舌を乗せた。
つるん、とした感触が俺の舌を滑らせる。その場に残った唾液はさらなる潤滑油となってより滑らかな滑り台を作り上げる。これは……なんというのだろうか、シーソーに乗っている感覚と似ている。そう、子供がよく遊ぶ、公園に置いてある、あの、シーソー、だ。登るには力を要し、頂上に着いてしまえばひとたびバランスを失うと反対側へ滑り落ちてしまう、あの頃の懐かしい感覚。俺は舌先から、幼い頃のかすかな思い出をもらっていた。だが、思い出に浸っている暇は今の俺にはない。さっきから羅生門が、ん、とか、ぁ、とか、やたら淫猥な音をたてているのだ。俺を現実の、エロスワールドへと引き戻すのには十分な威力を持っている音と言える。
さて、普通に舐めるのもこれぐらいにしておこうか。今度は吸ってみよう。
鎖骨を吸う。
なんと甘美な響きだろうか。腰が砕けそうな思いがする。
俺は意を決して、唇を羅生門のもう片方の鎖骨に密着させた。
む、これは……。唇で味わう鎖骨も、なかなかどうして、舌で味わうのとはまた違った趣があるものである。魚とて、生で食うか焼いて食うかなど様々な食し方があるのと同じことで、鎖骨もまた、様々な味わい方があるのだと、このとき俺は、はじめてわかったのです。
なにはともあれ、美味しい。これが羅生門という味か。これが羅生門という女か。これが羅生門という鎖骨か。これほどの鎖骨、おそらくは、いや、間違いなく世界中を探しても見つかるはずなどあろうはずがない。国宝だ、これは。いや、世界遺産だ。人類の宝だ。でも俺はそんなのは嫌だ。これは、羅生門は、俺の宝だ。他の誰の目にも映させたりはしない。……そうか、俺って、こんなに独占翼が強い人間だったんだ。羅生門はいろいろなものを見せてくれる。それと同時に、羅生門と接していると自分のいろいろな部分が見えてくる。羅生門が見せてくれるのだ。愛というもののありかを。存在というものの証明を。生存というものの価値を。
俺は涙が出そうになるのをこらえた。今はまだ、泣くときじゃない。そのときが来たら思い切り泣いて空を見上げられるように、今は思い切りむさぼりつくときだ。
いや、それにしても美味しい。じきに俺は唇と舌で同時に味わい始めた。これがまた極上の美味である。人間とは欲張りな生き物だ。美味しいものが二つあれば、両方欲しがってしまうのだ。それはもう欲望なのだから仕方がない。それに抗おうというほうが愚の骨頂なのだ。俺は今、鎖の骨頂を吸い、また、舐めているのだ。そのような悪しき正義とはわけが違う。ナイフもフォークもあるのだ。どちらも使えばいいではないか。もっと言えばスプーンもある。そう、歯という名のスプーンが。
俺は羅生門の鎖骨に優しく歯を当て、ゆっくりと滑らせてゆく。感触という点では唇や舌に及びはしないが、羅生門に与える刺激という点ではこれが一番だ。
悶える羅生門という羅生門の鎖骨に、俺は歯と唇と舌を、時に交互に、時に同時に触れ合わせた。マジおぃちぃ。鎖骨おぃちぃ。
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