第4話「たった一つの冴えたやり方」


 奇跡が起こった。否、俺の羅生門への愛が奇跡を起こしたんだ、と思う。少なくとも俺はそう信じたいのだ。
 本来ならば俺は、昨日の夜から今日の朝にかけて、そして今日の夜から明日の朝にかけて、クリスマス・イヴとネオ・クリスマスはバイトでぶっ通しのはずだった。
 しかし、今日のバイトからあがる際に、先輩から声をかけられたのだ。
「ちょっと神崎くん、頼みがあるんやけどなぁ」
 俺がなんでしょうか、と訊くと先輩は神妙な口ぶりで言った。
「今日の夜、神崎くん入ってるやんか。もしよかったら今日入らせてもらえんやろか?」
 俺は一瞬、めまいがした。なんだこの人は。どこまで知っている。俺と羅生門のなりそめのどこからどこまでを知っていてなんの意図があってそんな申し出をしているのだ、などという思いが頭の中を駆け巡り、俺はこう答えた。
「いや、全然オッケーっすよ」
 神様はいたのだ。
 而して俺はイヴネオバイトコンボクリスマスヴァージョンから解放された。なんと心地よいのであろうか。素晴らしい開放感である。俺はすぐさま羅生門に電話をかけた。
 電話に出た羅生門は世にも眠そうな声で、
「このような早朝に電話をかけてくる者があるか馬鹿者!」
 と俺を叱ってくれた。嬉しくて涙が出そうになる。
 そして俺がことの次第を説明すると、羅生門は眠そうな声ながらも、電話の向こうで笑ってくれた。
「そうか、それはよかったな、冥王。……あ、後で、そっちへ行くやもしれぬ」
 照れながら言う声が非常にかわいらしい。
「そうだな、クリスマスだもんな」
「ふむ、そういえばクリスマスであったか」
 羅生門は今日がクリスマスであるということをさも今思い出したかのように言った。
「クリスマスといえばキリストの誕生日であったと記憶しているが……そなた、キリストの信者なのか?」
 そんなわけがない。俺はチェ=ゲバラの信者なのだ。
「いや、違うぞ。それは羅生門だって知ってるだろう」
「ふむ。訊いてみただけだ。ならばわらわたちは今日、ともにキリストを呪おうぞ」
 キリストを呪う。なんて魅力的な提案なのだろうか。俺は二つ返事で承諾した。
「ならば後でそなたの家に向かおう。夕食はまたわらわがご馳走してやるから楽しみにしているがよい。どうでもいいが眠いのでもう切るぞ」
 それだけ言って電話は切れた。態度はでかいのに細かいところに目が届く羅生門らしい会話だったと思う。
 そして俺は空を見上げた。まだ暗い。雲が空の大半を覆っており、昼間になっても太陽光が差し込むことはないだろうと見て取れる。キリストを呪うには絶好の日和と言える。
 自然に口元が緩んできた。
 折角一緒に呪うのだから何か羅生門へのプレゼントを用意しようと思った。
 思えば早い。何が良いかを考える。
 相手は大学生である。しかし、実年齢は小学生のそれだ。子供扱いしていいものか、大人として扱うべきか。本人は大人ぶってはいるが、実際にはまだまだお子様なのだ。しかし、時々見せる仕草や反応には大人の余裕というか、経験豊富なものを感じさせる。つくづく、羅生門は不思議な女の子だった。
「……よし」
 決めた。プレゼントは……。



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