『冥王計画羅生門』第9話「バイブレーション・前編」
……む。
気がつくと俺は、自分の部屋に横たわっていた。
「気がついたか、冥王?」
キッチンのほうから羅生門がタオルを手に駆け寄ってくるのが見えた。
羅生門は横に座り込むと、俺の額にそっとタオルを乗せてくれた。濡らしてしぼってあり、気持ちがいい。力が足りないらしく、まだちょっと湿り気が多かったが、羅生門の一所懸命さが伝わってきて素直に嬉しかった。
それにしても俺はなんで羅生門に看病なんかされているのだろう。
そう思い、身体を起こそうとすると羅生門があわてて止めに入った。
「こ、これ、安静にしておれ。そなたには推定39度の熱が発生しておるのだぞ」
「39度!?」
あ、やべ。叫んだら意識が朦朧としてきた。
「だから言ったであろう」
羅生門は額を押さえて溜息をついている。まるで弟を看病する姉のようだ。実際、お姉さんのような気分を味わっているのかもしれない。
「待っておれ。今、おかゆを作ってやろう。あまりの美味さに熱を上げるでないぞ」
そう言って、羅生門はキッチンへと戻っていった。
枕元に投げ出された携帯電話を見る。今日は1月6日。
……そうか。
やっと記憶がはっきりしてきた。
俺は昨日まで、3日間に及ぶ鋼鉄Zi-Gとの邪魔大王国の未来を賭けた戦争を繰り広げていたのだ。なんとか勝利を収めたが、その疲れもあって、異常発熱を起こして倒れたんだった。
キッチンで鍋を相手に格闘する羅生門を見る。
……そういえば。
片付けなければならない問題はまだ残っていたことを思い出した。羅生門の気持ちはどうあれ、とんでもないものをクリスマスにプレゼントしてしまったと思う。
熱で頭がやられているのだろうか。まともな考えが頭に浮かんでこない。今はただただ、羅生門に申し訳ないという思いでいっぱいだ。
「羅生門」
俺は寝たままの格好で、キッチンの羅生門に呼びかけた。
「なんだ? もう少しで出来るから、待っていてくれ」
「クリスマスにおまえにやった、ローターなんだが……」
「おぉ、あれはろぉたぁと呼ぶのか。それで、あれがどうかしたのか?」
「えと……今も、つけてるのか?」
つけるというか、入れるというか。
「いや、今は入れてはおらぬ。流石に料理中は料理に集中したいからな」
「そうか……」
それを聞いた俺はどう思ったんだろうか。多分、安心していたように思う。いや、安心したと思いたい。
俺は意を決して上半身を起こした。
「あ、こら、寝ておれと言ったであろう」
羅生門が怒ってこちらを向いた。しかし、俺の表情を見て、彼女もまた、固まった。俺の真剣な表情が――熱のせいで筋肉を動かせないだけだが――彼女にただごとではないと思わせたか。まぁどうでもいい。羅生門が静かなうちに言ってしまおう。
「あのローターを、返してくれないか」
「え……」
おかずを盛り付けていた左手に持っていた箸を落としたエプロン姿の羅生門は、ひどく小さく見えた。
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