デパートで服を買って田中鈴木佐藤と別れた勇太は、岐路を急いだ。
結局、服の代金は田中鈴木佐藤に貸してもらった。その際、田中鈴木佐藤の見立てで服を選んでもらったのだが、
そのチョイスはかなり普通なものだった。流行に走りすぎることなく、一般から逸脱することもなく選ばれた服は、
グレーのカットソーにツータックのストレートジーンズといういかにも普通の高校生と言った服装だった。
とはいえ、勇太の心は晴れていた。
服を選んでいる最中、勇太は自分自身でも意外なほど楽しんでいた。
正直、女の子との買い物がこれほど楽しいものとは思わなかった。
田中鈴木佐藤が先に服を選んでさっさと着替えてしまったために、彼女のふくよかなぷよぷよが
雨に濡れた制服の上からうっすらと透けて見えるのを視姦できなくなってしまって少し残念ではあったが、
それ以上に有意義な時間を過ごせたと勇太は満足していた。
(田中鈴木佐藤さんにお金を返さなきゃいけないから……今月は厳しくなるなぁ)
などと、にやけながら考えてしまう勇太なのであった。
住宅街に入り、神社の前を通りかかったとき、境内に見慣れた姿があることに気がついた。
「あれは……」
後ろ姿しか見えないがあれは誠太郎だ。無人の境内でなにやら呆けている様子だ。
何をしているんだろうと思い、勇太は少しばかりの階段を上がって誠太郎に近づいていった。
「誠太郎!」
「!」
誠太郎は一瞬びくりと肩を震わせ、勇太に振り向いた。その動作は、勇太が思っていたものよりもずっと速かった。
誠太郎は明らかに驚いていた。それも、勇太の登場に。
誠太郎は固まっている。目を見開いて、何かを言おうとしながら。
驚きの対象は、あくまでも勇太で。他の誰でもない、勇太がこの場に現れたことに対して、驚きの色を見せている。
いや、場所は問題ではない。今日であろうと明日であろうと、誠太郎は勇太と会うと驚いたのだ。それが今だったに過ぎない。
「誠太郎……。何をそんなに驚いてるんだ?」
「あ、いや……」
相変わらず誠太郎は何か言いかけてやめてしまう。
いつもの誠太郎らしくないな、と勇太は思う。
普段ならば、言いたいことを周囲もはばからずに堂々と言うのが誠太郎だ。それが今は、何故か言いたいことをためらっているように見える。
なにか、うしろめたいことでもあるかのように。
だから勇太はさらに思う。誠太郎に何かあったのだろうかと。そして、何かあったのならば、親友として相談に乗ってやるべきであると。
普段はいやらしいことばかり考えている脳も、親友が困っているとあらば、脳内の粒子を総動員して働くに違いない。
勇太はそう思い、まずは楽に話させてやることが必要と考えて、勤めて明るく改めて話した。
「なぁ、誠太郎。なんかあったのか? 何でも言ってくれよ、僕でよければ力になるよ」
「森崎……!」
勇太の言葉を聞いて、誠太郎の表情に変化が現れた。勇太はその変化を見逃さなかった。
今まで迷いや戸惑いといった感情が浮かんでいたその表情に、はっきりと、後悔の色が浮かんでいた。
そして、
「森崎、聞いてくれ。大事な話なんだ」
その言葉を聞いて、勇太にも感じるものがあった。
誠太郎がここまで真面目な顔をして話をすることは珍しい。
頭のどこかで、誠太郎が里未のことを説明する姿が思い浮かぶ。あのときの誠太郎もまた、真面目に、深刻そうに話していた。
だから勇太は嫌な予感がした。里未のことで何か言われるんじゃないかと。
そしてその予感は、奇しくも妙な形で的中した。
「俺……桐屋さんを襲ったんだ」
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