スーパーロボット大戦∞IE

第2話「淡い想い」

 

「リーベ=デルタが無傷で、3人とも無事だったからよかったけれど……」

 浩平、司、七瀬は教官室で命令違反の説教を受けていた。

「今後、勝手な行動は慎むように。戻っていいわよ」

「え…」

「これ以上ここにいると謹慎処分がでると思うわよ」

「あ……ありがとうございます!」

 南条の寛大な措置に胸が熱くなる司。

「失礼しました」

 教官室を出る3人。

「ふ〜、誰かさんがでしゃばるからこんなことになるんだ」

 最初に口を開いたのは浩平だった。

それを聞いて七瀬もすかさず反論する。

「うっさいわね! あたしがいなきゃ、あんたやられてたのよ?」

「おまえなんかに守ってもらわなくても、自分の身ぐらいは守れたよ」

「うぬぬ、こんな奴助けてやるぐらいなら、ちゃんと乙女しとくんだった……。しくしく」

 ぶつぶつと呟く七瀬。しかし、その声は浩平の耳にはしっかりと届いていた。

「乙女?」

「あ……」

 しまった、という表情で顔を赤らめる七瀬。

だが浩平はそんなことに構う素振りすら見せない。

「今どき乙女に憧れるかぁ? しかも七瀬が。笑わせてくれるぜ」

 言葉のとおりに、おそらく本気で大笑いしている浩平。

「こいつ…いつか殺すわ」

 拳を握る七瀬の瞳は燃えていた。それは乙女というよりは、戦士のようだった。

「ははは。戦闘の後だっていうのに、二人とも疲れを知らないんだね」

 二人のやり取りを見ていた司が、あまり疲れてなさそうな顔で言う。

 そのとき、

「司」

 と呼ぶ、決して大きくない声が、それでも廊下の奥のほうから響いた。

直後、

「城島くん!」

 と、今度は大きな声が、同じ方向から飛んできた。

司が振り向くと、少女が二人、小走りでやってくる。

「里村! それに、柚木!」

 

 5人は、食堂のテーブルを囲んで腰掛けた。

司が、浩平と七瀬に向かって言った。

「紹介するよ。二人とも、僕の中学校の時の同級生なんだ。こっちの髪が長いのが、里村茜(サトムラアカネ)っていうんだ」

「調理班の里村です。よろしく」

 紹介に預かった茜は礼儀正しく浩平にお辞儀した。

茜は見た目は物静かな雰囲気のおとなしそうな感じの少女である。

腰まで伸びた綺麗なブロンドのヘアーを束ねることもなく、座っている今は、地面にこすらないように、自分の膝の上にたたむようにしてまとめてある。

 浩平は思った。シャンプー1本を一回で使いそうだと。

興味ありげに茜を見る浩平に、司は続ける。

「彼女はね、すごく料理が上手なんだ。特にお菓子作りが好きなんだよね」

「もう、司ったら……」

 うつむいて顔を赤らめる茜。

それを見た浩平が七瀬にそっと囁いた。

「おい、里村みたいな、こういうのが乙女っていうんだぞ。七瀬、お前はやはりアスリート向きだ」

ごすっ

 すかさず浩平のみぞおちにヒジを入れる七瀬。

「お、俺は認めんぞ……。これが乙女などとは……」

 消えゆくような声で呟く浩平。すでに司もそれを無視している。

「で、もうひとり。この見るからに元気のよさそうなのが……」

「柚木詩子(ユズキシイコ)でーす!ツヴァイ所属、よろしくぅ!!」

 司の紹介を遮って自ら起立して自己紹介をする詩子。

「ま、見てのとおり元気屋さんでね」

 補足説明をする司。

 詩子は、元気で明るい面は七瀬に似ているが、別に彼女も熱血タイプというわけではない。

こんなことを言っては七瀬に殴られるが、詩子には七瀬よりも幾分か落ち着きがある。

そして彼女は、場に慣れるという特技を持っている。その場その場で自分が立たされた状況を楽しんでいるといった感じだ。

「ツヴァイっていやぁ、七瀬と一緒だな、柚木も」

 浩平が七瀬を見る。

「そうよ。詩子とはこの艦に入ってから知りあったのよ」

「イェーイ! 留美だ、留美だぁ!」

 詩子が意味不明に七瀬を読んでいるが、とりあえずは無視しておく。

「なんか……ツヴァイって、俺が思ってたのと違う感じだな」

 浩平が七瀬や詩子を見た正直な感想を言う。

「だって実力主義だものね」

 詩子が即答する。それに七瀬も続く。

「そうそう。いくら成績がよくっても舵すらまともにとれないのが艦の操縦したら大変なことになるでしょ」

「なるほどな……」

 納得すると同時に、今まで自分がツヴァイに対して抱いていた反感が誤解であったと実感した。

すると、ツヴァイに対する好感、憧れまでもが湧いてきた。

「ところで司、さっき、出撃したみたいだけど、どこか怪我とかしてない?」

 茜が心配そうに訊く。

「あぁ、大丈夫さ。南条先生が応援してくれてたからね。それに……」

 一瞬、茜が残念そうな顔をした。それに気付かずに司は、

「頼もしい味方がいたからね」

 といって、浩平と七瀬を指し示す。

「そういや、俺たちまだ自己紹介していないな。俺は折原浩平。城島と同じパイロット志願。柚木、里村、よろしくな」

「あたしは七瀬留美。詩子と同じくツヴァイ所属。よろしくね、里村さん」

「はいはいはい、ひとこといっておきまーす」

 突然手を挙げて立ち上がる詩子。

「折原くん、あたしのことは、詩子って呼び捨てで呼んでちょーだい。やりにくいのよ、苗字で呼ばれると」

「ま、まぁ、そういうんだったら別に構わんが……」

「なんならあたしも浩平くんって呼ぼうか?」

「いや、それは遠慮しておく。おれは苗字で頼む」

「おーけー」

「じゃあ……里村のことも、茜って……呼ぶのか?」

「それなら私も、浩平?」

「あ、いや、俺はそっちのほうがくすぐったいから……」

「浩平って呼ぶほうが、なんかいいんです」

「う〜ん、なんだかこっちがやりにくい……」

「茜はね、言い出したらきかないよ」

 苦悩する浩平。

「あ、茜、そろそろ実習始まるんじゃないの?」

「本当、もう行かなくちゃ」

 席を立つ茜と詩子。

「それじゃ、司。また」

手を振る茜。

「また敵襲があるかもしれないから、気をつけて」

 司もまた、手を振って見送る。

 

 その後、ツヴァイの仕事がある七瀬とも別れて、浩平と司は司の部屋で時間を潰していた。

「そういえば折原はさあ、なんで名前で呼ばれるの嫌うの?」

「何だよ、急に」

「いや、ちょっと気になって。さっきもくすぐったいっていってたよね」

「……あぁ。幼馴染みのこと、思い出すんだよ、名前で呼ばれると」

「あぁ、なるほど。それでくすぐったいってか」

「まぁな。あいつはいつも俺のことを下の名前で呼んでさ。それでいて甘えん坊で……。なんか、そういう昔の思い出って、くすぐったいんだよ」

「わかるよ、それは僕にも」

「だろ? …しかし、時が経つのも速いもんだな。ついこないだまであいつと遊んでいたと思ったら、もう今はあいつのことを思い出しているなんてな」

ピピッ

 部屋の時計がPM3:00を示す。

「あ、職員会議終わる時間だ。折原、僕、南条先生にこれからのことについて訊いてくるよ」

「そうか。じゃぁ、俺は自分の部屋に戻ろう」

「悪い」

「気にするな」

 

 自分の部屋に戻った浩平は、一人で悩んでいた。

彼の中でどうしても腑に落ちないことがあった。

あのとき―ミオンの襲撃のとき―なぜ南条は敵がモビルスーツを持っていると知っていたのだろうか。

それにこのリーベ=デルタにはまるで最初からミオンの襲撃から地球を守るためのように、モビルスーツが用意されていた。この点はどう考えてもおかしいだろう。平和ボケしている地球人がそんなことを……。

 

 職員会議を終えた南条は、自室の回線で通信をとっていた。

「とりあえず、撃退はしましたが、この艦も長くは持ちませんよ」

「それは困る。リーベ=デルタにはあれが保管してあるのだからな」

「とにかく、士官学校の生徒だけでは危険すぎます。それに、ガンダムなどの処置はどうするのですか?」

「引き続き、七瀬君とガンダムの相性、折原君と城島君のモビルスーツ適性の調査を続けてもらう。ついでに他のクルーからも適格者を選出してくれたまえ。君のことだ、どうせもうすでに適性調査は済んでいるのだろう?」

「……わかりました」

「では、帰還までの健闘を祈る」

 ここまでで通信は切れた。

「私は……どうあっても運命からは逃れられないというの……?」

 南条は頭を抱えてうずくまる。

コンコン

 南条の部屋をノックする音がした。

「南条先生、少しいいですか?」

 ドアの向こう側から、司の声がした。

「城島君ね、いいわよ、入りなさい」

「ありがとうございます」

 といいながら、ドアを開けて入る司。

「どうしたの? 急に。はい、お茶よ」

「あ、どうも。……あの、これから僕たち、クルーはどうなってしまうんでしょうか。リーベ=デルタはどうするんですか?」

「そのことなら、さっきの職員会議で決まったわ。一度地球に帰還するわ。そしたら、校則どおり、学校を解体、この艦は軍に預けられることになるわ」

「戦争がはじまったから、ですか?」

「そうね」

 士官学校は、戦争が始まったら、一時休校ということに決まっているのだ。

「じゃあ……僕たちは……」

「さぁ……すべては、地球に着いてからね」

 

 廊下を歩いている浩平は、乙女のように振舞っているのか、小股で歩く七瀬を見つけた。

「おい、そこのアスリート」

 明らかに悪意のこもった声を、浩平のものだと認識するや否や、きっと睨みかえす七瀬。

「何なのよ、あんたは! これ以上、あたしの乙女への道を邪魔しないでくれる?」

「俺が邪魔するまでもなく道は閉ざされていると思うんだがなぁ」

「うっさいわね! 何の用なのよ?」

 それじゃあ本題に入ろうかと、真剣な顔になる浩平。

「突然のミオン発足、早すぎる奇襲、そして、整いすぎていた迎撃体勢。何かにおうと思わないか?」

 浩平の問いかけに、七瀬は腕組をして答えた。

「へぇ、あんたでもわかるんだ。この状況のおかしさが」

「馬鹿にするな、これでも軍人志願だ。好きで志願したわけじゃないがな」

「じゃあなんで志願したっていうの?」

「今となっては、そんなことはどうでもいい。それより、考えるべきはこの状況だ」

「そうね、確かにおかしいわ。まるで、両軍とも、戦争をする準備が最初から整っていたみたい」

「ミオンは最初からそのつもりだろうから、おかしくはないけど、連邦側にモビルスーツの準備があるのは、な」

「最初から戦争の発生を想定して開発していた?」

「十分あり得る話だろう」

 

「それじゃ、先生、失礼します」

 司が南条の部屋から立ち去ろうとすると、南条がそれを呼び止めた。

「待って。話があるの」

「話?」

 南条は司を再び座らせると、意を決して語りだした。

「城島君。これまでの連邦とミオンの動きを見て、何か疑問は浮かばない?」

 司は目を見張ったが、少し考えるとその問いに答えた。

「確かに、おかしいなとは思いました。でも、地球圏を脅かす勢力から地球を守るのは、僕たち軍人、の卵ですけど、その僕たちの役目だと思うんです。なら、別に格納庫に見たことがないロボットがあっても、戦力になるのであれば、むしろ歓迎すべきものです」

 司の言葉を聞いて、南条は肩の力を抜いた。

「ふふ、あなたのような生徒を持って私は幸せだわ。いいわ、すべてを話しましょう」

 

 浩平と七瀬は、二人で浩平の部屋で話していた。

「ま、そうとしか思えないよな」

「そうね」

 そこに、司が入ってきた。

「あ、二人ともいるんだ、丁度良かった」

「何か、あったのか?」

「いや、報告だよ。僕たちの持っている疑問の、答え」

 その言葉に、七瀬と浩平の二人は、聞き入った。

「いいかい、一応、軍事機密らしいから、誰にも喋っちゃダメだよ?」

「わかった」

「はやく話してよ」

「うん。話は7年前に遡るけど、地球のテスラ=ライヒ研究所のビアン=ゾルダーク博士がある予言をしたんだ。近い将来、異星人からの来襲があると。もちろん、様々なデータをもとにしてね」

「異星人!?」

「ねぇ、その、テスラ……なんとかって、何?」

「テスラ=ライヒ研究所。何でも、科学技術の研究所らしくて、博士の発表後は、異星人の来襲に備えて、兵器の研究開発に取り組んでいるらしい」

「じゃあ、あのガンダムやジムも、テスラ研の?」

「いや、あれは連邦製だ。正確に言うと、伊集院財閥だけどね」

「伊集院財閥?」

「連邦軍を全面的にバックアップしている巨大財閥さ。兵器の研究開発にも着手している」

「あんた、伊集院財閥も知らないの? 地球圏にいて」

 七瀬に無知さを鋭く指摘され、頭が上がらない浩平。

司は話を続ける。

「で、その当時、連邦はビアン博士の唱えた説を一般の耳に入る前にもみ消したんだ」

「もみ消す? そんなことができるのか?」

「相当権力、発言力のある者ならばね。でも、それが誰かはわからない。もしかしたらそいつは、連邦軍内での全権力の掌握を狙っているのかもしれない」

「でも、それともみ消しと、何の関係があるの?」

「未知の敵の襲来なんて話を聞いたら、軍人だって浮き足立ってしまい、軍はまとまらなくなってしまう。だから、そんな情報を流さずにいることで、効率よく異星人対策を立てようとしたんだろう」

「なるほどね。理由はいいんだけど、目的が邪悪ね」

「だけど、そいつがとった行動がいけなかった。そいつは、情報のもみ消しのため、発信源であるビアン博士を暗殺してしまったんだ。それから、テスラ研の研究者は、考え方の違いにより、2派にわかれてしまったんだ。一方は、地球連邦との協力はできないが、やはり異星人に対する対策はすべきだと主張する側。もう一方は、ビアン博士を殺した連邦に報復すべきと主張する側。お互いの衝突は収まりがつかずに、とうとう後者は宇宙へと姿をくらませてしまったようだ」

 話を聞きながら、浩平は密かに拳を握り締めていた。

(そうか。……住井、だからお前はあそこに……)

「そして、その研究者たちとビアン博士の支援者たちがあのミオンというわけだ」

「しかし司、よくそんな細かいことまでわかったな」

「南条先生が教えてくれたからだよ」

「なんで南条先生がそんなことを知っているの?」

「先生が軍の重要人物だからだよ、きっと」

 司は考える暇もなしに答えた。

(こいつ、南条先生には微塵も疑いを持たないな)

 浩平は、胸の内で南条にますます疑念を抱いていった。

すでに準備されていた戦争。誤算であったのは、相手が異星人ではないということ。

これから、戦火はますます拡大していくこととなる。

 

                            <第二話 終>

 

 

<あとがき>

 今回はまた、新キャラを2人も出してしまって、スパロボテイスト満点でいっちゃってますね。

この第二話は、戦闘を入れずに、話と話のつなぎとしての役割を持たせました。

 

<新キャラ解説>

☆里村茜(ONE〜輝く季節へ〜)

『ONE』の原作を知っている人は、茜はこんなじゃない、と思うかもしれませんが、現時点での茜は、原作登場前ということで、私のオリジナルの設定になっています。ということは、司、南条先生との絡みでお楽しみのイベントがあります。実際、それが前半の山場になると思いますから。

 

     柚木詩子(ONE〜輝く季節へ〜)

役どころは原作どおり、茜の親友となっています。元気一直線娘ですけど、活躍はまだまだ先です。

気長に待ちましょう……。