スパロボインフィニッタイ! 第三話「大気圏、突入」
一回目のミオンの襲撃以来、特に変わった動きもなかったが、リーベ=デルタ内は
相変わらず混乱していた。
それでもなんとか無事に地球付近までやって来れたので、明日にでも地球に降下しようという体制だ。
ミオン
「ほぅ、それで負け帰ってきたと?」
住井
「はい、私はほぼ無傷だったのですが、護衛のザクが全滅の上、敵軍にはあのRX−78ガンダムが……」
ミオン
「なんと! 連邦軍め、すでにあれを完成させておったか。それで、ガンダムを相手にした感想は
どうなのだ」
住井
「はい。確かに連邦からハッキングしたデータに狂いなき性能でした。しかし、今ガンダムがある、
あのリーベ=デルタという戦艦には、十分な戦力となりうるパイロットがいない模様。
それに、現在地球に降下する準備中との情報も入っております。叩くなら今が好機かと」
ミオン
「うむ、任せる。しかと頼むぞ」
住井
「はっ!」
敬礼をした住井は速やかに司令室から出ていった。
司令室に残ったミオンは、サイド3から望む宇宙空間に心を漂わせた。
ミオン
「ガンダムか……。あれが完成したとなると、予定を少し早めねばならんな……」
住井
(見ていろ、折原。俺の選択が正しかったということを証明してやる)
急ぎ足で歩く住井の前に、澪の姿があった。
住井
「!」
澪
「……」
澪は不安げな顔をして住井を見上げた。
住井
「どうしたんだ?」
問い掛けると澪は、スケッチブックを取り出し、伝えたいことを書き込んだ。
澪
『しんぱいなの』
さらに書き続ける。
澪
『むなさわぎがするの』
住井
(……これが、ミオン総帥の提唱した、ニュータイプというやつか……?)
澪
『せんぱい』
住井
「うん?」
澪
『おりはらせんぱいがしんぱいなの』
住井
「!!」
浩平と澪は、まだ二人が幼い頃に地球で出会っている。
浩平はもう忘れてしまっているが、澪にとっての印象は強かったので、しっかりと覚えているのだ。
舞
「やっと、調整も終わった。佐祐理は先に地球へ……」
佐祐理
「あははーっ、佐祐理も舞のお手伝いするね」
舞
「……駄目。私一人で大丈夫。それに、魔物を狩るのは私の役目だから……」
佐祐理
「うーん、わかりました。じゃあ佐祐理は一足先に地球へ下りておくね。舞、気を付けてね」
舞
「佐祐理も……」
舞
(!……この感じは……魔物じゃない? ……何を感じて?)
万葉
「さて、ウイングの調整も出来たし、早速地球へ向かわないと」
薙
「ちょっとママ、あまりにも性急過ぎない? なんかミオンとかいうのも出てきてるし、
そっち優先させたほうが……」
心話で薙が万葉に呼びかける。今、万葉は宇宙にいて、薙は地球にいる。
万葉
「それよりも薙、あなたのマシンはまだ完成しないの?」
薙
「まだよ、しょうがないじゃない。まだ適切な材質が見つかってないんだから」
万葉
「そんなこといってあなた、あの人を先に見つけ出そうなんて思っていないでしょうね」
薙
「う〜ん、パパにも早く会いたいけど……って、そーじゃなくって、ミオンはどうするの!?」
万葉
「……正直、私には、ミオンからはそれほどの悪意は感じられない。それよりも、今は地球に、
何か悪意の塊のようなものを感じる」
薙
「……そう。あ、それとママ、大気圏付近に位置している戦艦なんだけど……」
万葉
「わかってるわ。なにかわからないけど、悪意に似たようなものを感じるわ」
薙
「似たようなもの……?」
万葉
「それが何なのかはわからないけど、私たちの敵であることに間違いはない。
この戦艦が地球に入る前に叩いておくわ」
薙
「でも、まだ敵の戦力は窺い知れないわ。それに、ママ一人じゃ……」
万葉
「引き際は心得ているわ。幸い、このウイングはプロトタイプとはいえ、単独での大気圏突入も
無理なくできるように設計されているわ。危なくなったらすぐに降りるわ」
薙
「無理しないでね、ママ」
万葉
「心配はいらないわ」
万葉
(薙……あなたは一体、何をしようとしているの……?)
次の日。
リーベ=デルタはこれより大気圏突入を始めようとしていた。
アナウンス
「これより大気圏突入を開始する。これより大気圏突入を開始する。七瀬留美、城島司、折原浩平。
以上、3名は第1戦闘配置へ。それ以外の者は、各自自室にて待機。繰り返す。これより……」
アナウンスがこだまする。
浩平と七瀬は同じ廊下を格納庫に向けて走っていた。
七瀬
「なんでワタシたちだけ出撃準備なのよぉ!」
浩平
「突入準備中は、リーベ=デルタは動けないから、そのタイミングを狙って敵が襲ってきたときのため、
だろ?」
七瀬
「わかってるわよ、そんなこと!」
茜
「司……」
部屋から飛び出した司は、部屋の前で立っていた茜に出くわした。
司
「茜、早く自分の部屋へ! 危ないぞ」
茜
「司、気をつけて」
司
「あぁ、がんばるよ」
茜
「出撃になっても、無茶しないで……」
司
「……無茶は、したくない。でも、この艦を守るためなら、多少の無茶はするよ」
茜
「司っ……」
司はそれだけ言って、走っていってしまった。
茜は歯がゆい想いで胸が一杯になった。
司の気持ちは南条に向いている。そんなことはとっくにわかっている。
わかっているからこそ、余計にもどかしい。
自分の想いは、司に伝わらないのだろうか……。
司が遠くへ行ってしまう……。
茜は自分の無力さに失望していた。
茜
(私じゃ、司に何もしてあげられない……)
純
「入射角よし! エンジンよし! いつでもいけるぞ!」
匠
「張り切るね〜、純。七瀬さん第2号と命名しようか」
純
「匠、ふざけてる場合か! 敵の反応があったら即座に報告するんだぞ!」
この二人は穂刈純一郎と坂城匠。
二人とも、七瀬と同じく、ツヴァイの一員である。
匠
「わかってるよ。……!! 後ろッ、敵反応!!」
純
「何ッ!? 識別は?」
匠
「え〜っと〜、これは、ミオンだよな?」
純
「くっ、突入は一時中断! 敵の迎撃に当たる。リーベ=デルタはすでに突入体制に入っているため、
ここから動けん! モビルスーツ隊、出撃頼む!!」
通信を受けた格納庫のジムに乗っていた浩平が、メットをかぶる。
浩平
「やっぱり来たか……」
そこにすかさず南条の通信が割り込む。
南条
「みんな、聞いての通りよ。敵はミオン、ここで叩いておかないと地球に入られてしまうわ。
それに、私たちも一旦地球に戻らなければならない。負けるわけにはいかないわ。」
司
「わかっています。城島、出ます!」
真っ先に司のジムが飛び出していく。
七瀬
「あ〜、ワタシのガンダムより先に出たわねぇ〜」
司を追って、七瀬も飛び出していく。
浩平
「やれやれ、さて、行きますか」
浩平も続いて飛び出す。
浩平
(なんだ? 何か、胸騒ぎがする? 俺が、動揺してんのか?)
そこに、匠の通信が割り込んでくる。
匠
「ちょっとまった!」
浩平
「な、なんだ?」
純
「たった今確認したんだが、この宙域に急速で接近する機影が2つ。しかも、まったく別の方角から!」
匠
「しかも、それってミオンじゃないんだ。正体不明の機影なんだよ」
浩平
「……おまえら、誰だ?」
純
「……おい」
匠
「はいはい、自己紹介はあとあと。とりあえず、2機とも2分後にはこの宙域に到達する計算だから、
十分注意してね〜」
それだけ言って、通信は切れた。
浩平
「誰だ、今の?」
司
「さぁ」
七瀬
「ツヴァイのやつらよ。さ、いくわよ!」
司
「2人とも、識別データ送るよ!」
七瀬
「相変わらず早いわね」
浩平
「ん? なんだこれ、この間の敵と変わんないじゃんか。それに、赤い奴もいる……!」
司
「折原? どうしたんだ」
浩平
「……あの赤い奴は、俺に任せてくれ」
司
「え、な、何を言うのさ!」
七瀬
「ちょっと、喋ってる場合!?」
3人の目の前まで、赤いザクが迫ってきていた。
赤ザクは浩平のジムめがけてヒートホークを振り下ろした。
浩平
「クッ……」
なんとかビームソードで切り払う浩平。
すでに後続のザクが何体も迫ってきている。
浩平
「こいつは俺が食い止める! 2人は残りの奴らを!」
七瀬
「……仕方ないわね。ピンチになったらちゃんと助け求めんのよ!」
司
「折原、無理はするなよ!」
七瀬と司は他のザクの撃波に当たり、その間、浩平は赤ザクの相手をした。
住井
「折原、俺の相手を買って出るとは、たいした自信だな」
浩平
「住井か! 住井、なんで俺たちが戦う必要がある!?」
住井
「連邦の上層部にでもきいてみるんだな!!」
今度はヒートホークを横に薙ぎ払う。
これはくらってしまう。
浩平
「ぬっ、これぐらいで!」
折原はジムにライフルを構えなおさせ、ろくに照準も合わせずに放った。
住井
「何ィ!?」
赤ザクは間一髪でビームをかわした。
住井
「く、この近距離で、しかもこれほど速く反撃に移るとは……」
ザクが一瞬ひるんだ隙を逃さずに、浩平のジムは、ザクにしがみついた。
浩平
「答えろ、住井! おまえがあの時、士官学校をやめてまで宇宙に上がったのは、ビアン博士を
暗殺した連邦軍への報復のためか!」
住井
「!! そうだ、その通りだ! ビアン博士は正しいことをしておられた。なぜそのようなお方が、
地球を守るべき地球連邦に抹殺されねばならん!!」
浩平
「いいたいことはわかる! だが、今ミオンがやっていることはなんだ?
侵略戦争じゃないか!」
住井
「違う! この戦いは、侵略戦争などではない。大義は我々にある!!」
赤ザクがジムを突き飛ばした。
すかさずザクマシンガンを構える。
そのとき、
住井
「む、何者!?」
ミオン部隊の背後に、白い翼をもった機体が、そしてリーベ=デルタの背後に、黒い独特な
フォルムの機体が出現した。
浩平
「何だ?」
七瀬
「さっき純と匠が言ってた2機!?」
現れた2機の機体は、お互いと、その場の状況を見て、少し戸惑っている。
白い翼をもった機体に乗っているのは、高原万葉。乗機はウイングガンダムプロト。
黒い気体に乗っているのは、川澄舞。乗機は試作型ズワァース。
万葉
「たどり着けたはいいけど……ミオンと交戦中? それに、あの黒い機体……不思議な感じがする」
舞
(魔物の乗る艦とミオンの交戦を確認。あの翼の機体……データにない)
住井
「なんだ、あの翼をもった奴……まるでガンダムじゃないか!」
司
「あの黒い機体はなんか、虫みたい」
住井
「くっ、予期せぬ事態が起こりすぎた。撤退する!」
浩平
「あっ、住井! 待て!」
住井
「折原、おまえとの決着はいずれ必ずつける。そのときまで死ぬなよ」
そういって、ミオンは撤退していった。
浩平
「住井……」
舞
「ミオン撤退を確認。リーベ=デルタに攻撃を開始」
匠
「えっ!?」
突如、ズワァースがリーベ=デルタに向けて動き出した。
純
「本艦の援護を頼む!」
浩平
「援護っていっても、あのガンダムみたいな奴はどうすんだよ?」
純
「ガンダムのスピードなら黒い奴の接近に間に合う! 七瀬、本艦の援護を!」
七瀬
「仕方ないわね。折原、城島、あの羽生えた奴、頼んだわよ!」
ガンダムは全速でリーベ=デルタの援護に向かった。
万葉
「ん〜、他人を利用するのは嫌いだけど、状況が状況だものね。ここはひとまずあの黒い機体と
悪意に近い艦との戦いを見ましょうか。それに、こっちにも敵がいるみたいだし」
浩平
「おい、あんた! 俺たちの敵なのか?」
万葉
「あなたたちがあの艦に帰属している以上、私の敵ということになるわ」
司
「それ、どういうこと?」
万葉
「私はあなたたちの艦から、悪意に似たものを感じるの」
司
「悪意……?」
万葉
「だから、あなたたちも片付けさせてもらうわ」
ウイングガンダムプロトがライフルを構える。
万葉
「バスターライフル……まだ完全ではないけど、ビームライフルよりは威力が高いはず」
司
「! ま、まずい。かわせ、折原!」
浩平
「く、間に合わない!」
先程住井にやられたダメージがたたり、思うように動けない浩平ジム。
まともにバスターライフルをくらう。
浩平
「ぐっぅ、な、なんて威力だ……」
司
「大丈夫か、折原!」
万葉
「バスターライフルをまともに受けて大破しない? やはり、ウイングにはまだ改良の余地がある……」
司
「折原、戻れ。こいつの相手は僕がする」
万葉
「その必要はないわ」
司
「えっ?」
万葉
「この場は一旦退くわ。けど、覚えておいて。あの艦から悪意が感じられる限り、私は何度でも
あの艦を標的に動くわ」
そういって、美しい翼のガンダムは、宇宙に消えていった。
ズワァースとリーベ=デルタの間に割って入ったガンダムは、ズワァースとの一騎打ちを繰り広げた。
両者、ビームサーベルとオーラソードの攻め合いを繰り返しており、一向に勝負がつかない。
舞
「敵データ参照。こちらよりも戦力的には劣る。なのに、苦戦」
七瀬
「くっ、こいつ、強いわ!」
舞
「やっぱり佐祐理の言うとおり、宇宙では完全に力を発揮できない」
七瀬
「ちょっと、何さっきからブツブツいってんのよ! それに、なんだあんたいきなりアタシたちを
襲ってくんのよ!!」
舞
「……私は、魔物を討つ者だから……」
七瀬
「えっ、魔物……」
舞
「今日は、退く……」
ガンダムが一瞬ひるんだ隙に、ズワァースはものすごい速さで星の海へと消えていった。
純
「おいおい、なんてぇ速さだよ……」
匠
「3機の回収、急いで! 何はともあれ、これより大気圏突入で〜す!!」
ミオンの出現に呼応して異変の発端を見せる地球圏。
問題はまだまだ山積みである。
多くの謎を抱えたまま、リーベ=デルタは地球へ降下を開始する。
<あとがきっぽいもの>
少しずつ話が大きくなってきました。相変わらず貧弱な文章力なので、戦闘部分は理解に
苦しむかもしれませんが、それはご愛嬌ということで(笑)。
今回は、ユニットとしてガンダムW、ダンバインという二つの作品を新たに参戦させました。
って明らかに連邦弱すぎですよね(笑)。もうじき浩平たちにももっといいユニットに乗ってもらいます。
いえ、ジムもいいんですけどね、哀愁漂って(おぃ)。
<新キャラ解説>
☆川澄舞(Kanon)
試作型ズワァースのパイロット。ズワァースは彼女の自作ユニット。
現時点では、まだオーラ力を利用していないただの人型兵器である。
しかも宇宙適性が低いもんだから、明らかに格下のガンダムに苦戦しちゃってます。
実は彼女の台詞の端々にも物語の中核に迫る部分があります。
ってこんなに書いたらバレバレかなぁ?
☆倉田佐祐理(Kanon)
今回は顔見世程度の登場ですが、舞の親友です。活躍もまだ先ですね。
バストール搭乗候補者です。
☆高原万葉(久遠の絆)
ちょっと登場が早かったかもしれません。初期段階では、もっと遅くに登場する予定だったのですが、
ミオンと舞だけではしょぼいかなぁと思い、組み込んでみました。
本当はもうちょっと浩平たちと戦わせたかったのですが、明らかに戦力が違いすぎるため、
バランスをとりにくいので早々に撤退させました。
あ、断っておきますが、今回はウイングに乗っている彼女ですが、最終的なウイングのパイロットは
万葉ではありません。さてなんでしょう?
☆薙《天野聡子》(久遠の絆)
この辺のキャラも、原作と少し設定が違っています。都合がいいですね(汗)。
今回はほんの顔見世です。
本作中の『久遠の絆』の扱いとしては、原作ゲーム開始時点を始点としています。
よって万葉はまだ薙との面識はないはずですが、この部分だけは再臨詔編のように、
お互いに記憶が戻っているということで。
坂城匠(ときめきメモリアル2)
ツヴァイの一員。部類の女のコ好きで、しかも情報通…のはずなんだけど、まだ全然その設定を
活かしていません。彼の本性はそのうち明らかになるでしょう(笑)。
穂刈純一郎(ときめきメモリアル2)
ツヴァイの一員、っつーかリーダー。責任感の強い性格で、名前の通りピュアな心の持ち主。
そんな彼は誰への愛を貫くのでしょうか?