「桜の季節」序章 第五話 「明日への光、どこまでも」



 いつからだったろうか・・・・。



 僕は真陽にまで本当の自分を見せられないでいた。



 なぜだ?思い出せない・・。



 いや、思い出したくないんじゃないのか?



 そうだ。思い出したくない・・。



 いや!だめだ。思い出さないと・・。戻れないんだ・・。



 僕の意識は自然と何かを探していた。

それが何か、その時の僕にはわからなかった。

でも、確かに何かをなくしてしまっている。

それもとても大事な何かを。

それだけは、なんとなくだがわかった。

そんなことを思っているうちに僕の意識が僕に何かを見せてきた。

見つけられたんだろうか・・。

 僕の心の目にある情景が映った。

暗いな。

まるで、白黒のテレビモニタのように。

灰色だ。



 僕は、神崎 陽由真。15歳の高校一年生だ。

このころは、まだ両親がいた。

・・・・まだ?今は?

全身がゾクゾクとしてきた。

僕の意識は構わず僕に映像の続きを見せてきた。

男性が見えた。この人は・・、僕の父さん!

それに隣にいるのは・・、母さん!

僕の父さんはある建設会社の社員だった。

ある日父さんは海外のアミューズメント施設の建設を任され、母さんと一緒に遠いところへ行った。

父さんは僕もつれて行こうとしたが僕は断った。

海外に興味はないとか言った気がする。

 その一ヶ月後。

仕事が終わったので日本に戻るという知らせを聞いた。

僕も高校一年生だ。

一ヶ月も両親がいなくてやはり寂しかったのだろう。

両親の帰りを楽しみに待っていた僕はテレビでとんでもないニュースを見た。

「・・・・・・・・旅客機が墜落。乗客の生命は絶望的とのことです。」

「!?・・・・。」

 その日、一本の電話が入った。

画面はさらに見辛くなった。

これは僕がなるべく抹消したかったから、か?

 僕は一人になった。考えた。

誰にも頼らず、誰にも関わらずに生きていけば、誰かを好きになって、その人を亡くして悲しむこともない・・・・。

きっとこのころから僕は二面性を持つようになったんだな。

それよりも、忘れていた両親の死を思い出して、今、身近にいる真陽や真由ちゃん、それに僕自信の死に至る様が僕の頭に浮かび上がった。



「うわぁぁぁぁぁぁぁあっっ!!」

 僕は突然起き上がった。

すべての記憶に背を向けて、逃げてきた。

「ひ、ひゅーま。・・・・驚いた。・・目、覚めた?」

「真陽・・・・?」

 ここは・・、僕のアパート?なぜ、ここに?

「ここまで来るの、大変だったのよ。」

 真陽が運んでくれたのか?僕を・・・・。

「真陽・・。」

「さっきから「真陽」しか言ってないよ。恥ずかしい。」

「ご、ごめん・・。」

 真陽は少し笑って言った。

「・・で、どうしたの?急に叫んだりなんかして。」

「!・・そ、それは・・・・。」

「・・・・お父さんと、お母さんのこと?」

「!!・・・・。う、うん・・・・。」

 真陽は、すべてお見通しだった。

「ひゅーま。あなたが自分のこと、「俺」って言うようになったのってご両親を亡くしてからよね。で、さっき戻った・・・・。あれは、あの時から今まで私が見てきたひゅーまじゃない、本当のひゅーまだって、思ってもいい?」

「本当の・・・・、僕?」

 もう、「俺」と言う気にはなれなかった。

でも・・・・。

「真陽・・。・・・・でも、僕は、僕はもう、あの時から・・・・。」

「一人じゃない。」

「!」

 真陽に言葉を遮られた。

真陽は動揺している僕を落ち着かせるかのように優しく言った。

「あなたは一人じゃない。ひゅーまには、私がいるよ。そして私にもひゅーまがいる。私は、ここずっとあなたに頼りっぱなしだけどひゅーまだって私に頼ってもいいのよ。お互い、助け合って生きていこうよ。・・・・ね。」

「・・・・真陽。」

「それに、さっきの「僕」っていったひゅーまは、紛れもなく本当のひゅーまよ。戻りましょう。また、あの時のように。」

 真陽は、僕の両親が亡くなった時から、いや、僕が本心を隠すようになってからずっとそれ以前の僕を取り戻そうとしてくれていたのか。

 僕は落ち込むあの時の僕を一生懸命励ましてくれた真陽を思い出した。

「ありがとう、真陽・・。真陽は本当に僕のことを大切に考えてくれるよ。本当に、ありがとう。」

「そんな・・。ひゅーまだって、私のこと、本当に大切にしてくれてる。それは・・ね、ありがとう。」

「真陽・・・・。」

 僕が立とうとした時、真陽が口を開いた。

「・・・・なんか、こういうの、真由に、あの子に悪いよね。」

「え・・・・?」

「あ、ひゅーま。お台所借りるね。肉じゃがとキンピラゴボウでもつくってあげる。」

「あ・・、うん。ありがとう・・。」

 信じあい、助け合い、そして護り合う。

それが、愛・・・・、なのか・・?

今、二人の間にあるのは愛なのか?それとも・・。

答えは一つじゃない。

これから、見つけていこう。二人で。



 明日への光を求めて・・・・。



          序章 終  桜の伝承編につづく




第四話へ

桜の伝承編 第一話へ

「桜の季節」メニューへ

トップページに戻る