「とある嵐の日」


 ・・・・暗い。

朝なのに、なんでこんなに暗いんだろう。

僕は布団から起き上がり、カーテンを開けた。

真っ暗だ。

かすかに雨音が聞こえる。

そうか、だから暗いのか。

時折、激しく雷が鳴る。

ふと、真陽の顔が浮かぶ。

真陽は大丈夫だろうか。

真陽は極度の雷嫌いなのだ。

カレンダーを見た。今日は3月19日。日曜日。

大学は休みだ。真陽の家に行ってみよう。

真由ちゃんもいなくてきっと怖がっているだろう。

僕は、東京タワーがプリントされた折り畳み傘を手にとった。

そういえば、これは真陽に借りていたんだっけ。

ついでに返しておこう。



家を出た。ひどい雨だ。

公園を通り過ぎる時、桜の樹が目に入った。

雨と風でかなり散ってしまっている。

悲しくなってきた。

僕も真陽も、桜が大好きなのだ。

春になるといつも真由ちゃんと三人でお花見をした。

楽しかった。

真陽もきっと心配していることだろう。

早く行ってあげよう。

 真陽の家に着いた。

ピンポーン。インターホンを鳴らす。

真陽の声が聞こえた。

「どちら様、ですか?」

「あ、神崎だけど。」

「あ、うん。今、開けるね。」

 真陽がドアを開けた瞬間、

ビシャッゴロロロロ・・・・と、雷が轟いた。

「雷・・・・近いな。」

「きゃあっ。」

 真陽が叫んで奥に飛び込んでいった。

「ま、真陽、大丈夫か?」

 僕は靴を脱いで、ドアの鍵をしっかりと閉め、真陽の部屋に向かった。

真陽の部屋は明るかった。

恐らく、いきなり雷が光って驚かないように、目を慣らしているのだろう。

真陽は、ベッドに横たわっている。

「真陽、大丈夫だよ。雷、止んだよ。」

 真陽はおそるおそる僕に顔を向けた。

「こ、怖い、・・・・怖い・・・・。」

 ガチガチに震えている。

僕は上着を脱いで、それをそっと真陽にかけてあげた。

そして、真陽の横に座り、肩に手を置いてあげた。

「・・・・!」

 少し安心したようだ。

しばらくそのままにしていると、だいぶあったまってきたらしく、真陽の震えもなくなってきた。

 途端、僕も安心したのか、グギュルルルルと、お腹が鳴ってしまった。

そういや、朝メシ食べてなかったな。

「あ、朝ご飯、ひゅーまの分もつくろうか?お味噌汁と、鯖の味噌煮、だけど。」

 少し恥ずかしそうに。

「本当?ありがとう。よろこんでお願いするよ。」

「うん。じゃあ、つくってくる。待ってて、ここで。」

「うん。わかった。」

 真由ちゃんの料理もおいしいが、真陽の料理もかなりおいしい。

実際、昨日の肉じゃがとキンピラゴボウは、僕の舌をうならせる絶品だった。

また食べられるのかあ。幸せだなあ。

 僕と真陽は、ちょっと早めのブレックファストを楽しんだ。

「うん。うまいよ。この鯖。それに、お味噌汁も。」

「へへ、ありがと。ひゅーま。」

 本当に、おいしかった。う〜ん、最高。

「そういえば、ひゅーま。こんな雨で、桜は大丈夫かな?特に、太陽桜とか・・・・。」

「公園の桜は、ほとんど散ってた・・。」

「!・・そう。」

「このままだと、太陽桜もあぶないかもな。」

 僕たちは不安になった。

ご飯が食べ終わった。

僕も後かたづけを手伝った。

「そういえば、ひゅーま。今日はバレー部の練習あるんじゃないの?」

「・・・・あっ!」

 しまった!忘れてた。

僕は時計を見た。もう九時半だ。

初日から遅刻だ〜。

待てよ。こんな雨で、練習あるのか?

だいたい今日は体育館はバスケ部が使う日だ。

それに先輩に同じ高校の人がいるから、多少はわかってくれるだろう(何をだ?)。

う〜ん、そうだ。

「よし、僕が見てくるよ。太陽桜。」

「あ、私も・・・・。」

「この天気で、大丈夫?」

「・・・・。」

大丈夫じゃないのだろう。

「大丈夫。ここで待ってて。見たらすぐに戻ってくるから。」

「う、うん。」

 不安そうだ。

一人でいるのが不安なのか、それとも太陽桜のことが不安なのか。

その時の僕にはわかる由もなかった。

「あ。」

 しまった。真陽のカサしかない。

「ごめん、真陽。この傘、また貸してくれない?」

「うん、いいよ。」

 東京タワーの傘をさして、大学へと向かった。



 大学に着いた。

この大学のキャンパスは異様に広い。

太陽桜広場まで行くのに10分、そこから教室まで15分もかかる。

やっと太陽桜広場に着いた。

太陽桜は、この広場の中央にある。

前にも言ったが、この樹には様々な伝説が語り継がれている。

僕が聞いているのは、確かーーーー。

 そこで、絶句した。

太陽桜が目の前にあった。

こんな天気の中、桜色でずっと輝き続けている。

そういえば、さっきまでの風を今はもう感じない。

まるで、この樹に包み込まれているようだ。

 その時、僕はこの樹の伝説を思い出した・・・・。

                 第二話につづく




序章 第五話へ

第二話へ

「桜の季節」メニューへ

トップページに戻る