「迷い人、その存在、確かめて」


 3月20日。今日も僕は、真陽と一緒に登校する。

「おはよう。ひゅーま。」

「はよん。真陽。」

「今日は一緒の講義ないね。」

「ああ。今日もがんばろうな。」

 一つ。

「はよん」っていうのは、僕の中で流行している朝の挨拶だ。

最初のうちは真陽からもバカにされてきたが、今となってはあきれられてもう何も言われない。

まあ、どうでもいいことなんだが。



 大学にやってきた。

最初の講義は、数学的理論だ。

この教授は僕とよく気があう人で、名を高知 明人(コウチ アキト)という。

10年間、この大学で教授をやっているらしいが、こんな出来の悪い学生は初めてだ。と、よく言っている。

「うっし!じゃあ始めるぞ。座れ!者共っ!」

 相変わらずすごい熱血ぶりだ。そして講義が始まった。

「だから、要するに、だ!Θがここにこう!分かるな?てぇことは、 ここの値が求まるだろう!あとは公式に当てはめるんだ。いいか。 この公式は超重要だ。必ず覚えろ!分かったか!」

 この人の講義はおおかたわかりやすいので助かる。

しかし、これは確か高校でやったような気が・・。



講義が終了した。午前の講義はもうない。

よし、花魔術研究会の部室へ行ってみよう。

 部室のドアを開けると、部長がいた。

部長、といっても、一年だが。ここは部員が一人しかいない。

こいつの名前は、有馬 幸次郎(アリマ コウジロウ)。

「よーぉう。神崎、やっと我が研究会に入る気になってくれたか。」

「バーカ、そのつもりはないよ。」

「あそ。ところで、浅瀬山とはうまくいってんのか?」

「お、おまえには、関係ないだろ。」

ほら、すぐこれだ。

「まあな。へいへい。で、何の用なんだ?」

「実は、ちょっと聞きたいことがあってな。」

「ん?何だ?言ってみな?」

「は、花魔術って、どういうものなんだ?」

「お、やっぱ興味あるんじゃん。いいか、ようくきいとけ。」

言うと有馬は、部長用と大きく書かれたイスに座って話し始めた。

 「花魔術ってのはな、花に祈りを捧げ、その花言葉にちなんだ効果を術者、もしくは任意の人物にもたらしたり、未来・過去・運勢などがわかる占いのようなことが出来る魔術のことだよ。」

「本当にそんなことが出来るのか?」

「出来るよ。ちゃんと文献に書いてある。まぁ、一種のおまじないみたいなもんだよ。・・・・で、何が聞きたいんだ?何か調べものがあるんだろ?花についての文献なら豊富にあるぜ。ここは。」

「あ、ああ。この大学の、太陽桜の伝説についてなんだが・・。」

「はぁ?太陽桜っつっても、伝説の数が多すぎてどれを調べていいかわからんぞ。」

「ああ、実は・・・・。」



 僕は有馬に、僕の知っている二つの伝説について話した。

「ふぅ〜ん、生きている、ねえ。別れの伝説は知ってるけど、こっちは知らんなあ。」

「別れの伝説、知ってるのか?教えてくれ!」

「な、なんだいきなり・・。ああ、わかった。今から二年前・・。」

 その話は、昨日唯から聞いたものとまったく同じ内容だった。

そうか、あれが別れの伝説の本ネタだったのか・・・・。

でも、生きているっていうのは、一体・・・・。

「もう一つの方、わからないか?」

「ああ、ちょっと待ってくれ。今、調べてみる。」

 有馬が本棚を荒らし、いや、探り始めた。しばらくすると、一冊のノートを持ってきた。

「これは、ここの研究会に古くから伝わる禁断の書だが・・。」

「いいのか?開いて。」

「俺が部長だからいいんだ。」

「知らんぞ。」

 有馬はノートの表紙を見て言った。

「ふむふむ、花魔術研究会○秘研究レポート、か。何かいい情報がありそうだぜ。」

 表紙をめくった。

「なんて書いてある?」

「えーと、「このレポートは、時を越えて語り継がれる花魔術のすべてを記した書である。これを開く資格のあるものは、我と破滅の運命の絆で結ばれし者のみ。それにあらざる者は決して開くべからず。我と破滅の運命の絆によりて結ばれし者、陽由真、真陽、真由、真陰。我が名は阿沙加。」って・・・・。」

「!!な・・・・!!!!今、なんて・・?」

「「我と破滅の運命の絆によりて結ばれし者、陽由真、真陽、真由、真陰」・・・・こ、これって!!」

「お、俺の名前・・。それに、真陽や、真由ちゃんも・・・・。しかも、真陰・・・・て誰だ?」

「さ、さあ・・。こ、この我が名っての、どう読むんだ?普通に読んだら、アサカってなるけど。」

「そんな名前・・、聞き覚えがないぞ。」

「でも、ここにおまえらの名前が載っているじゃないか。それに、破滅の運命の絆って、一体・・・・。」

 なんなんだ?どうしていいかわからない。

それに、なんか嫌な予感がする。

「と、とにかくさ、神崎。おまえなら開いてもいいみたいだからさ、おまえが開けよ。」

「で、でも、僕がこの陽由真かどうかの確証なんかないぞ!」

「おまえら三人みたいな珍しい名前、他にいないって。真陰もはじめて聞く名前だ。間違いなくおまえたちのことだよ。」

「で、でも・・。」

「開かないと、伝説のことも何もわからんぞ。他にめぼしい書類はなかったからな。」

「・・・・。」

 いつもそうだ。

あと一歩のところでいつも勇気が出せないんだ。

こんなことじゃ駄目だ。真陽を護れやしない。

そう思った僕は、やっと勇気を出した。

「・・・・わかった。開いてみるよ・・・・。」

 今僕は、壮大な運命へと立ち向かおうとしていた。

                  第四話へつづく




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