「運命の出会い、謎、解かれん」


 阿沙加、真陰・・・・。

一体、誰なんだろう。

そう思いながら僕は、注意書きの次のページを開いた。

そこは、目次のようだった。

ざっと目を通した僕は、一つ気になる事項を見つけた。

「32〜;小泉庭園・太陽桜伝説と検証」とあった。

 有馬と顔を見合わせて、ゴクリとつばを飲み込んで、そのページを開いた。

そこにはこうあった。

「この項目は、花魔術の研究とは直接的な関係はない。しかし、この本を開く者がおそらく疑問に持つであろう、破滅の運命の絆の意味について記してある。同時にそれは、古代失われた花魔術の解に大いに役立つことであろう。一つ、忠告しておこう。我と破滅の運命の絆を持つ者よ。謎は明かされるとともに、解放されるのである、と。」

 前半部分はいいが、後半部分、これは・・・・。

よく意味のわからない記述に、僕は少々困惑した。

「おい、神崎。その続きはどうなってるんだ?」

「あ、ああ。今、詠むよ。」

 その書にはこうあった。

「遠い時、遠い地。人あり。人、また人をいふ時、嵐来たり。闇、風 、男、現る。その男、妻、その妹、妹あり。場、桐生ヶ崎にして、妹消したり。理、あれども。妻の妹、消されたり。男、妻とともに、海に出づ。妻、久遠の愛を誓いし時、運命無情にも、二人を闇に、光へと帰す。されども、男生く。久遠の愛、探したれども見つからず、その命終えたり。四、同じ運命をたどりゆく。破滅の運命の絆の名のもとに。」

「はぁ?なんだ、これ?意味わからんぞ。それに、古文調だが、文法も滅茶滅茶だ。なあ、神崎?」

「・・・・!!」

 今僕は、どういう顔をしているのだろう。

おどろきひきつっているだろうか。

僕の中である程度の推測はついた。というより、そんな予感がした。

 確証はないが、もしかするとこの「男」って、僕のことじゃないだろうか?

そうすれば、うまい具合に話があう。「四人」っていうのも、注意書きのところにあった、僕と真陽と真由ちゃんと・・・・、真陰。

に、なるのでは?

そしてこれを書いたのは阿沙加・・・・。

とすると、話からして、これは僕らの前世の話か?

いや、そんなはずがない。

前世の記憶を持っている奴なんて、いるはずがない。

でも、今僕が思ったことは、どうも直感とかとっぴょうしもないものじゃなく、僕の中にある「記憶」のような気がしてならない。

 なんだ、この感じは・・・・?

「ごめん、有馬。今日僕、もう帰るよ。」

 僕は苦悩に絶えられなくなり、立ち上がった。

「そうか・・・・。あ、そうだ、これ、持っていけよ。」

 そう言って、有馬は僕にレポートを手渡してくれた。

「俺が持ってても意味ないしな。おまえ、持ってりゃ何かの役に立つだろう?」

「ありがとう、有馬。じゃ。」

 僕は花魔術研究会の部室を出た。

何も考えずに、ふらふらと歩いていた。



気がつくと、屋上にいた。

 僕はこの場所が好きだ。

何か考え事をする時、落ち着けてちょうどいい。

今日も風が気持ちいい。

 僕は場所を選ばず寝転んだ。

さっき僕が思ったことは、僕の中にあった「記憶」・・?

そうじゃない、いくらそう思おうとしても、頭がそう思ってくれない。

どうして・・・・。

怖い・・・・。

 頭の中で、前世の存在を認めてしまっていた。



 ヒョオォォォォ

 急に冷たい風が吹いた。その風とともに、細い声が流れてきた。

「考え事?」

「?」

 僕は飛び起きた。目の前、いや、ちょっと遠い場所で女の子が立っていた。

声は、目の前で聞こえたような気がした。

女の子はぼーっと、太陽桜広場のほうを眺めている。

僕も太陽桜のほうを見た。

そういえば、あの文章には、桜のことが書かれていなかった。

何の関係があるんだろう。

「やめるの?」

「!」

 そうだ、女の子がいたんだった。

「・・・・君は、誰?」

「・・・・。」

「答えられないのか?」

 僕の中で自然とこの女の子に対する不信感が沸き上がってきていた。

この娘は、何の気配もなく、僕の近くにいたのだから。

「さあ・・・・ね。」

「なぜ、ここに?」

「あなたのほうこそ。」

「・・考え事、だよ。」

「やっぱり。」

「なぜここにいる?」

「それは、あなたが一番よくわかっているんじゃないかしら?神崎 陽由真さん。」

「・・・・!なぜ、俺の名前を!?」

「俺・・・・ねぇ。」

「あ・・・・!」

 やっぱり、まだ慣れていないな。「本当」の僕に。

親しくない人と話すとすぐこれだ。

それより、その本当の僕を知っているとは・・。

「ま、いいわ。私、こういう者。」

 そう言って彼女は、二つ折りにした紙を僕の方に放った。

紙は僕の頬にあたり、胸ポケットへと入った。

それにはこうあった。

「・・・・真陰!?」

「私の名前は、春月 真陰(ハルツキ マイン)。よろしくね。」

「・・・・。何者だ。」

 紙から顔を上げた時には、もう誰もいなかった。

「・・・・真陰・・・・。一体・・・・。」

 真陰。さっきのレポートに僕らと一緒に書いてあった「四人」の名前のうちの一人。

「・・・・ん!?」

 僕は重大な事に気がついた。

さっき真陰からもらった紙に書いてある「真」の字と、レポートにあった「真」の字の形が、まったく同じなのだ。

「これは・・・・、一体!?」

 冷静に考えるんだ。レポートにはこう書いてあった。

「我が名は、阿沙加。」

 真陰は、阿沙加と同じ字を書く。

いや、そうじゃなく、あれは真陰じゃなく、阿沙加!?

だとしたら、なぜ僕の前に現れたんだ?

僕に、何が言いたかったんだ?



 屋上から下りると、真陽と出会った。

「あ、真陽・・・・。」

「ひゅーま。お昼、一緒に食べよ。」

「う、うん。」

 真陽にレポートについて話すべきかどうか、迷った。

今は言わないほうがいいのかもしれない。

ただでさえ、今真陽は、真由ちゃんのことで、頭が一杯なのだから。

それが、僕の判断だった。

「ね、帰り病院寄っていこう?」

「あ、うん・・・・。」

 そして真由ちゃん。僕たちは何か、とんでもないものに巻き込まれているんじゃないだろうか。

                第五話へつづく




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