AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
「悲しき小鳥の飛べない翼」
午後の講義を終えた僕たちはお互いのクラブ活動を終えると、一緒に病院へ向かった。
目的はもちろん、真由ちゃんのお見舞いである。
ちなみに真陽は、バドミントン部に入っている。
真陽は中学時代を水泳部で過ごし、高校で山岳部と文芸部を掛け持ちし、現在に至る。
珍しい経歴だなあ。
さて、小泉総合病院に着いた。
さっきからずっと、頭の中で真陰に言われた言葉が響いていた。
「それは、あなたが一番よくわかってるんじゃないの?」
「やっぱり。」
「俺・・・・ねぇ。」
わからない。謎だ、謎だらけだ。
僕たちは真由ちゃんの病室に入った。
相変わらず、真っ昼間にもかかわらず、瞳を閉じたままだ。
真由ちゃんもまた、巻き込まれているんだろうか。
この一件に。
そんな真由ちゃんを真陽は訴えかけるような眼差しで見つめていた。
それは、真由ちゃんに問いかけるかのように、やさしさと厳しさを含んでいるような感じがした。
そんな真陽をぼーっと眺めていると、真陽は急にこちらを向き直り、ドアの横、僕の後ろを指差して言った。
「ひゅーま。そこのお花、とってくれる?」
「あ、うん。」
真陽の声の調子も、入学式の時に比べたら、ずいぶんよくなってきている。
また昔のように、雪孝や杉岡さんとなかよくやれるといいな。
そんなことを思いながら、ドアの横のテーブルの上にあった花瓶をとって真陽に手渡した。
「ありがと・・・・、あなた、誰?」
え・・・・?僕に言ったのか?
いや、違う。
真陽の視線は、僕の後ろに向けられていた。
「だ・・・・っ。」
僕はとっさに後ろを振り返った。
そこには、屋上で出会った娘、真陰がいた。
「真・・・・、阿沙加!!」
「・・・・阿沙加・・・・!?」
僕が彼女を阿沙加と呼んだのに対して、真陽が「誰?」といった感じで不思議そうに言う。
「言ったはずよ。私は真陰だって。」
「阿沙加っていう、名前は知っていそうだな。」
「ふん。減らず口を。まあ、いいわ。丁度、全員揃っているようだしね。」
全員?
この娘が阿沙加だとすれば、「全員」っていうのは、レポートに書いてあった、僕、真陽、真由ちゃん、そして真陰の四人のはず。
しかし、ここには真陰がいない。
僕の推論は間違っていたのか?
「な、何をする気だ?こんな所で。」
「もうすっかり忘れてしまっているようね。あなたの過去の過を!」
「・・・・過ち?」
「ひ、ひゅーま。何の話、してるの?この人、誰?」
「あら、あなたも忘れているようね。真陽?」
「・・・・!やはり、真陽の名前も知っているんだな。」
「そっちの子も知っているわよ。真由、でしょ?」
「なんで・・・・?」
真陽が、信じられない、といった表情で言う。
「真陽、ここは僕に任せて。何も言うな。」
「僕・・・・か。クスクス。」
また、僕の一人称に反応している。
「な、何が可笑しい!?」
「あなた、まだ気が付かないの?私がここにいる理由を。」
やっぱりだ。
僕は、鞄を開けて有馬からもらったレポートを取り出し、真陰に見せた。
「これだろ?阿沙加。」
そう、これだ。『謎は明かされると共に解明される』というのは、このことだったんだ。
なら、なおさら、この娘は阿沙加に間違いない。
しかし、真陰はどこに・・・・。
「ふふ。正解よ。私は阿沙加。あなたたちに真実を伝えにき者。」
「・・・・真実?」
「そう、あなたたちの記憶の片隅で消えかかっている、悲しい記憶。」
「記憶・・・・。」
記憶・・、やはり、前世とか言いだすんだろうか。
「ひ、ひゅーま・・・・。」
戸惑っている僕に、真陽が声をかけてきた。
その声は、おびえているようで、弱々しかった。
「!?どしたの、真陽!?」
「ま、真由・・・・、真由が・・・・。」
「!?」
真由ちゃんのほうを見た僕は、驚くべき異変に気が付いた。
「ま、真由ちゃんが、動いて、いる・・・・!!」
わずかだが、確かに動いていた。
いや、動きたがっているように見える。
「な、なぜ・・・・?」
「ふふ、どうやら真由は、私の存在に反応しているようね。」
「存在に、反応?」
「わからない?真由の体は動けないわ。でも、魂が私の魂の放つ霊波と共鳴しあっているのよ。私にはビンビン感じとれる。おそらく、真由はもう、覚醒しているわ。」
「どういう、事だ?」
「真由は自ら、記憶を取り戻したのよ。」
信じられない。
魂の存在自体は信じられるが、普通は生きている間は、肉体が魂を覆っているものだろう。
生きている間は・・・・。
それが、魂が肉体から離れているなんて・・・・。
生きている人間にはあり得ないことのはずだ。
ということは、まさか!!
「そう。真由は今、生と死の境をさまよっているわ。」
「!!」
僕の心の中を読んだかのように、阿沙加は言った。
「そ、そんな・・・・。どうすれば・・・・。」
「すべての解決の鍵は、あなたが持っているわ。」
「僕・・・・が?」
「・・・・そう。今、真由がこんな状態になっている理由はわかる?」
「なんでそんな事まで知っているんだ!?」
「いいから、質問に、答えて。」
「・・・・交通事故。・・・・間違いはないな?」
「おそらくは。じゃあ、その交通事故の原因は?」
「!・・・・。」
「言って。」
迷った末に、僕は少し顔を赤くして言った。
「真由ちゃんが、僕に、こ、告白しに、来たからさ・・・・。」
真陽がまた思い出して、泣いてやいないだろうか。
そんな心配で、後ろを見たかったが、阿沙加の威圧感で動けないでいた。
「ふぅ〜ん。そうだったの。」
「!そうだったのって、知らなくて、僕に聞いたのか?」
「当たり前でしょ。この姿であなたたちに会うのは、あなたを除いてこれが初めてなんだから。」
この姿・・・・?一体、何者なんだ?阿沙加は。
「ま、これでだいたいはわかったわね。」
「な、何がだよ?」
「真由が帰れない原因が、よ。」
「だから交通事故で・・・・。」
「違う。体じゃなくて、魂の話よ。」
「あ・・・・。」
「さっき、私、「生と死の境をさまよっている。」って、言ったわよね。意味は当たり前として、その理由はわかる?」
「・・・・わからない。」
魂が抜けるなんてこと、体験したこともないのに、どうやったらわかるんだ・・・・。
「私、わかる。」
「え!?」
突然、真陽が口を開いた。
僕は真陽を見た。真陽は真由ちゃんをじっと見つめている。
「言ってみなさいよ、真陽?」
えらく挑戦的な言い方だった。
しかし、真陽は目線を真由ちゃんからはなさなかった。
「なんとなくわかる。真由が体に戻れないのは、精神的な問題なんだと思う。」
「よくおわかりで。さすがは、永遠の姉妹。」
「あなたの言っていることはよくわからないけど、これだけはわかるの。」
「何が?」
「ひゅーま。」
突然呼ばれて、僕はちょっとビックリした。
「な、何?真陽。」
「ひゅーま、真由の事故の事で、えらく責任感じてるでしょう?」
「え・・・・うん・・・・。」
そりゃそうさ。責任、感じずにはいられないさ。
あの時、僕が真由ちゃんを引きとめて、もう少し話とかしていさえすれば、真由ちゃんはあの事故をまぬがれることができたのだと思えば・・・・。
「きっと真由には、それが辛いんだと思う。」
「え・・・・?」
「自分の好きな人によ、自分のせいで私はこうなっているんだって、悪いなって、思われているのよ。そんな状況で、真由、あなたに会わす顔があるかしら?」
そうか・・・・。言われてみれば、そうだ。
真由ちゃんから見た真由ちゃん自信は、僕のお荷物になっているのかもしれない。
たとえ僕がそうは思わないでも、僕が真由ちゃんのことを心配するのは、真由ちゃんからしたら、同情にも哀れみにも見えてしまうのかもしれない。
本当に心配かけているのは、僕のほう、なのか・・・・?
だから真由ちゃん、戻れないのか・・・・?
「・・・・。」
気がつくと、阿沙加が何か言いたそうにこちらを
見ていた。
「・・・・な、何だよ?」
「言いたい事、ちゃんと言えば?」
「・・・・え?」
「言いたいこと全部、心の中にしまっちゃうそのクセ、いい加減にやめなよ。」
なぜ阿沙加が心が読めて、そんなことまでしっているんだという疑問など、もうどうでもよかった。
ただ、阿沙加にそう言われた途端、なぜだか急に、すごく懐かしい気がした。
なぜだろう。
「とにかく、真陽。あなたの言っている事は、正解よ。でも、理由はそれだけじゃない。もう一つ、あるわ。」
もう一つ?まだ、真由ちゃんが体に戻れない理由があるというのか?
「こればっかりは、あなたたちに聞いてもわからないでしょうね。」
「なぜだ・・・・?」
「それは・・・・、その理由が、たった今真由が取り戻した記憶の中にあるからよ。」
「どういう、事だよ?」
「だから、私はそれをあなたたちに伝えるためにここに来たのよ。」
その時、この場の重い空気を割って、看護婦さんが病室に入ってきた。
「浅瀬山さんの点滴のお時間です。」
「ふぅ。邪魔が入ったようね。きょうはこのくらいにしておくわ。この続きは、また後日、ね・・・・。」
そこまで言うと、阿沙加は病室から出ていった。
「ちょ、ちょっと待って。」
僕と真陽は、急いで病室を出た。
丁度、阿沙加は階段を下りようとしているところだった。
「待ってよ、阿沙加っ。」
「・・・・何?」
「阿沙加、君は一体、何者なんだ?」
「私は、阿沙加。あなたたちと運命を共にする者・・・・ 。」
「違うっ!そんなことを聞いているんじゃない!なぜ、僕たちのことをそんなによく知っていて、しかもそんなに自信ありげに言うんだ?」
「僕・・・・か。」
「い。いいから、答えろ!」
「その前に一つ、尋ねておくべきことがあるわ。」
「・・・・何だ?」
「知ってしまったら、もう逃げられないわよ。あなたには、運命に立ち向かえるだけの勇気があるのかしら?」
これは、僕の運命を決定づける選択肢なのだろうか。
どちらにしても、僕が選ぶことのできる選択肢は、一つだけのようだ。
そう、僕にはもう、振り返っている余裕はない。
勇気だ。僕には勇気が足りない。
でも、僕は思う。
真由ちゃんを助けたいという思い、真陽を護りたいという思い、そして、真陽に対する想い。
そのどれもが、僕の勇気の足りなさなんかには決して負けないくらい、強い力なのだ、と。
僕は迷わず言った。
「ああ、覚悟はできている。」
「そう。なら、教えてあげるわ。私は、阿沙加。あなたの、妹よ。」
ーー!!?!!妹!?今、確かに、そう言ったよな?
「え・・・・そんな、うそ・・・・。」
真陽は絶句している。
そして僕も・・驚きで何も言えなかった。
「じゃ、確かに、教えたわよ?」
そう言って阿沙加は、階段を下りていった。
あとに残ったのは、動揺ばかりであった。
第六話へつづく
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