「出会いと別れをくりかえし」


 ・・・・朝だ。また、朝がきた。

でも、今日の朝は、いつもの朝とは違う。

昨日までと、違う。

 僕はシャワーを浴びた。

これをしないと目覚めた感じがしないんだ。

 でも、今日は違う。

熱湯を浴びても、冷水を浴びても、全然起きた感じがしない。

それどころか、妙に体が重い。

これが何かを背負っているという感じなのだろうか。

 ・・・・背負う?

一体、何を背負うというんだ!?

運命?宿命?そんなもの、背負ってどうするんだ。

 シャッ

僕はカーテンを開けた。

すがすがしい陽の光が入ってくる。

そして窓を開けた。

真っすぐ部屋に入ってくる風が僕の髪をかきあげる。

気持ちがいい・・・・。

 そんな僕のすがすがしい気持ちとは裏腹に、僕の頭の中では、昨日の晩からずっと阿沙加の声が響いていた。



「私は、阿沙加。あなたの妹よ。」



 どういう意味だ?

真に受けていいのか?

でも、僕に妹がいるなんてこと、身に覚えがない。

しかし僕には、どうも阿沙加の言うことがウソだとは思えない。

彼女には、それなりの自身が感じられた。

もし本当に妹だとすれば、つじつまの合うことも結構あるし、わからなかったことにも、予想がつく。

 しかしそれは僕にとってのはじまり。

今までとは違う、何かが始まることになる。

僕には、迷っている暇はない。

一刻も早く真由ちゃんを助けなければならない。

けど、まだ助ける方法がわからない。

どうしたらいいんだ。

 いや、こんなことで悩んでいる場合じゃない。

とにかく、僕は昨日から寝ずにずっと考えた。

もしも阿沙加が本当に僕の妹だとすれば、一体どうなるのか。

まず、阿沙加の言っていた、「永遠の姉妹」だ。

あれの意味はつまり、「真陽と真由は、「永遠の姉妹」であるからこそ、お互いの気持ちが通じ合う。」ということだろう。

ならば、僕と阿沙加が本当に兄妹で、その関係が「永遠」であるならば、阿沙加が僕のクセ、というか、欠点みたいなものを言い当てることができたのにも納得がいく。

ん?

でも、僕には阿沙加の気持ちはわからなかったぞ。

どうしてだ?

そういえば、阿沙加が「真由はもうすでに、記憶を取り戻している。」と言っていた。

もしかしたら、記憶を知っている者が、「永遠」の関係をもつ者の心が見えるのか?

ハッ、待てよ。

もしそうだとしたら、あの時すでに真陽は記憶を取り戻していたか、もしくは取り戻しつつあったということになる。

すべては僕の憶測に過ぎないが・・・・。

 何の手がかりもつかめていないのは、僕だけなのか・・・・?



 僕は外へ出た。自然と足が大学へと向かっていた。

どうやら僕は阿沙加を探しているようだった。

無意識に。

また、屋上に行けば会えるかもしれない。

その時こそ、真実をつきとめなくてはならない。



 大学に着いた。

僕は太陽桜広場へと歩き出した。

太陽桜を見上げてみた。

僕たち三人、いや、四人と、この太陽桜に、どんな関係があるんだろうか。

運命、過去、誤ち。

すべては、阿沙加に会えばわかる。

これから僕がするべき事、真由ちゃんを救う手立てが。

 しばらくボーッと太陽桜を見上げていると、風の冷たさを感じないことに気がついた。

いや、それどころか、ここは暖かい。

そんなバカな。いくら三月の下旬とはいえ、朝はまだまだ冷え込むはずだ。

それなのに、なんだ?この温もりは。

僕はハッとした。

まさかこれは、あの嵐の日に感じた、「生きている樹」の温もり!?またか。でも、なぜ?

 突然、温もりが離れていき、冷たい風が僕に当たってきた。

「どうしてここにいるの?」

 後ろから声が聞こえた。

すぐさま振り返ると、そこには阿沙加がいた。

「あ、阿沙加・・・・。」

「屋上に来るんじゃなかったの?」

「!・・・・、あ、いや、なんとなく、ここに・・。」

「なんとなく・・・・か。ふぅん、あなたの中でもわずかながらに記憶が戻りつつあるようね。」

「え・・・・。な、なんで、わかるんだ?」

「本人がわかるわけないでしょ。これは、私だからわかるの。」

 意味ありげな発言だった。

「まあいいわ。いい?ここが、「悲しい記憶」の舞台・・・・。今からあなたにすべてを伝えるわ。」

「ちょ、ちょっと待って。」

「!・・・・何?」

「いま、「僕も記憶を取り戻しつつある。」って、言ったよな?」

「ええ。」

「なら、他にもいるのか?」

「真陽と、真由よ。」

 当たり。

やはり、真陽は記憶を取り戻しつつあったんだ。

「もう一つ。」

「何よ。」

「君は本当に僕の「妹」なのか?」

「・・・・・・・・。」

 しばし、沈黙が続いた。

「どう、なんだ・・・・?」

「・・・・さあ、ね。そんなこと、どうでもいいわ。」

「どうでもよくないよ。教えてくれよ。」

「・・・・今、あなたが集中しなくちゃいけないのは、私たち四人が定めづけられた運命について、なのよ!あなたがこれをしっかりと理解して、真由のことをわかってあげなくちゃ、真由は戻ってこれないのよ!」

 ハア、ハア・・・・。

阿沙加が息を漏らす音が聞こえた。

疲れているのだろうか。

「・・・・わかった。じゃあその、運命とか、過去とか、誤ちとかについて、早く僕に教えてくれよ。」

 僕も覚悟を決めた。

「ええ、そうするつもりよ。」

 阿沙加が両手を広げた。

目をつむる。少し下を向く。

何かを唱えているようだ。

「!!?」

 突然、下から風が吹いてきた。

下から?大地から風が吹いてくるなんて信じられない。

 いつのまにか、阿沙加の回りに、光の陣が出来上がっていた。

「・・・・!」  驚きで、声も出なかった。

「目をつむりなさい。陽由真よ。」

「な、何をする気だ?」

「今からあなたに、過去を見せるのよ。」

「見せる・・・・・・って、教えてくれるんじゃないのか?」

「百聞は一見にしかず、見せる方が早いわ。」

「で、でも、目をつむって、何が見えるっていうんだよ?」

「言ったろう、百聞は一見にしかず、と。とにかく目を閉じるがよい。」

 ビクッとした。

一瞬だが、阿沙加の声に阿沙加以外の人格を感じたからだ。

「・・・・わ、わかった・・・・。」

 とにかく、僕は、目をつむった。

「準備は、いい?」

「あ、ああ。」

「それじゃあ、行くわよ。遠い、遠い、記憶の世界へ。」

 その時すでに、僕の意識は暗い闇の中にあった・・・・。

                第七話につづく




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